【完璧な涙/神林長平 著】を結構前に読み終わった.感情が一切ない少年である宥現,と魔姫と呼ばれる旅の女が,「それ」と呼ばれる古の戦車からの逃走劇を軸に,感情と時間について思いを巡らせる作品.
核心についてはネタバレなしで紹介しておく.
かなり難解な話だった.正直,戦闘妖精・雪風シリーズよりよほど難しい.また,主人公の宥現は本当に感情がないという珍しいキャラクターだ.雪風の主人公,深井零も情動が薄いように書かれるものの,クールに振舞っている零とは違って,完全に人間味がない.雪風というマシンと零という人間の対比が面白い戦闘妖精・雪風と比べて,「完璧な涙」の宥現と「それ」は完全に同じ立場にある.
少しづつ読むと意味不明になるので,一気に読むのがオススメ.幸い,文章自体が読みにくいわけではなかった.
Pam, pam tau Soncea,
Iemef tarariu deive kerin.
S’as aridu butau fege,
tarariu ta enimau deive kerin.
Reri, reri ze z’amanra are n ni,
Korita usden u iue kerin.
原文:Was milodmam(マクシャギュア語辞典)
Vene pit wawra, (母なる太陽よ)
Samma o eltis proua cawea nas. (山に木々を育みたまえ)
Uyuie eslens oi puta mauya essi (その腕に水を抱き)
Eltis in hassas poule cawea nas. (木々と獣とを育みたまえ)
Dineka o rokia en ifas di (地の上にある我らに)
Yoleka dowras poule proua nas. (日々の恵みを与えたまえ)
項の順序
イジェール語では、助詞によって文中における意味関係が示される。関係節内では動詞が末尾につく(副詞的用法の記述詞がある場合は動詞の後ろ)という制約は厳しいが、それ以外での制約は緩い。記述詞の順序にも制約は基本的にないが、話者が本質的であると思っている要素ほど名詞の近くに来る傾向がある。
項の省略
文脈と文構造から明らかな要素は省略してもよい。日本語話者にとってわかり易い例を挙げると、明らかに自分の行動であると分かる場合は主語を省略することが出来たり、属格の形容対象を省略できたりする。
例
“Mon tire tun u.”
「そんなこと言うなよ。」
記述詞のtunは「そんな」という形容詞用法なので、venu|こと が省略されていると考えることができる。
“Mon tire tun.”
「そんな風に言うなよ。」
意味は似ているが、後者の言い方では内容よりも口ぶりや口調に焦点を当てている。
口語的な省略
乱暴な口語としての省略は、アクセント位置を含む末尾2音節を保存する。KrongiskaはGiskaとなり、AikarsemはKarsemになる。この手の省略は専ら挨拶語に対して適用されることが多い。
例
“Han, res oskurbarenu sien are.”
“Res u min cegire?”
“Ia, krongiska.”
「あれ?俺の鉛筆がない。」
「俺のを使うか?」
「ああ、ありがとう。」
2行目の文は”Mef res oskurbarenu min cegire?”が正式な言い方である。対格を示す助詞”u”の存在によってResの後の名詞の存在が示されているので、この場合は省略しても良い。
“Han, barenu sien.”
“Res u cegire?”
“Giska.”
「あれ?鉛筆ねえ。」
「俺の使う?」
「あり」
おそらく最小の構成。文語ではまず現れないレベルの省略で、文脈によってはネイティブでも意味が取りづらい。
間が開いてしまったが,1日目,2日目,3日目の続き.

この日はボービントン戦車博物館を訪れた.相変わらず周囲には何もない土地で,駅からの風景は田舎そのものである.

こういう光景が全面にわたって広がっている.風景を見るだけでもなかなか美しい.



さて,戦車博物館の中はこのようになっている.公式ホームページを見ると地図を見るとわかるが,WW2ブースや戦後ブースなどがあって,かなり広い.正直,写真で内部を紹介したブログなんかはたくさんあるので,詳細はそういうサイトを見てもらったほうが良いと思う.
続きはこちら.
続きを読む
【天地明察:冲方丁 著】を読み終わった.改暦に関する話というよりは,渋川春海伝といったほうが正確な気がする.軍事政権の独裁者としての武士から,文治政治の主である文官としての武士への変革の時代を生きた人間の話だ.
暦の具体的な計測方法だとか,計算方法についての具体的な描写が出てくるわけではない.メインは渋川春海がたくさんの天才たちや秀才たちと出会うことで受けた驚きや,人生の変化を追っていく話である.
伝記が好きな人にはオススメだと思うし,単純に描写が美しいと思うことが多かった.そもそも,自分はあまり伝記を読む人間ではないが,それでも面白いと感じた.
【虐殺器官:伊藤計劃 著】を読み終わった.
ネタバレにならない範囲であらすじを述べておく.この小説は,アメリカ情報軍所属の特殊部隊員である主人公,クラヴィス・シェパード大尉が世界中の虐殺を先導して回る「ジョン・ポール」なる人物を追いながら,その真意に迫っていく物語だ.
物語の道具としては,サピアウォーフの仮説をはじめとした言語の本能に纏わる話,進化と良心や虐殺や倫理観に纏わる話,脳や意識は決して一枚岩ではなくモジュールが連合して動いているのだという話が用いられる.利己的遺伝子についての話を知っていると,理解の助けになるだろう.
自分には,最初この話は2つの主題があるように見えた.ひとつは,クラヴィス大尉が思い悩む「死者の国」についての話で,もうひとつはジョン・ポールを中心とした虐殺と進化についての話だ.でも,この2つの物語は後半で交錯して来る.そして,そこから最後に至る展開は怒涛としか言えない.
とても面白い話だった.
1日目,2日目の続き.
3日目はコスフォードの空軍博物館を訪れた.乗換駅であるバーミンガム駅の周辺も少しだけ見て回った.

ロンドンのユーストン駅から出発して,まずバーミンガムに向かう.
実は,地図を見ればわかるが日に日に遠出になっているので,朝出る時間も日に日に早くなっている.この日は確か5時起きだっただろうか?チケットを券売機で買っても1時間近く余裕があったので,適当に食事を取りながらプラットフォームが決まるまで待った.出発20分前くらいにならないと,どのプラットフォームから出発するかわからないのだ.


ユーストンで乗った電車はこういう電車だ.前半と後半で行き先が違う編成だったので,乗ってから移動する必要があった.この日は出発が若干遅れていたので,1枚目の写真ではプラットフォームに沢山の人がいる.

電車に1時間半くらい揺られると,英国第二の都市バーミンガムに到着する.ロンドンとは雰囲気が違う大都市だった.
続きを読む