外来語の取込み傾向
イジェール語は品詞によって語尾が制限されているため、外来語は制約の薄い名詞として取り込まれる事が多い。元々形容詞や副詞だったものは、イジェール語の制約に従って語尾が付与される。動詞は制約が多いため、そのまま動詞として取り込まれることは殆ど無い。
固有名詞ではない普通の単語は、アクセント位置を合わせるように調整されることが多い。聞こえ度の低い母音を削除したり、語尾にaを挿入して無理やり末尾から2つ目の母音にアクセント位置が来るように整える。一方で、固有名詞は綴りの正確さを重視して、発音は二の次になることがある。これは、一般名詞に比べて固有名詞の表記には規則性が求められるからである。しかし、固有名詞でもアクセント位置の調節が行われるものもあり、より人口に膾炙した表現が生き残る事になる。
例
- ru:уран→ur’ana「ウラニウム」
元の発音のアクセント位置がウラーンなので、aを挿入して調整。
- ru:Япония→Iapon’ia「日本」
元の発音のアクセント位置はイポーニヤだが、綴りを重視した結果イヤポニーヤになっている。
外来語の派生
元からイジェール語である名詞は性質や状態を表すものが多く、動詞への派生も名詞が性質を表すことを前提としている。このため、外来語にそのまま動詞語尾-eをつけて動詞化することは殆ど無い。一方で、記述詞は「~的な、~っぽい」という意味への派生が認められるため、-(i)nをつけて記述詞に派生することは多々ある。
国際音声記号との対応
太字の部分は本来イジェール語に存在しない音素であり、外来語を音写する際の参考音素を表記する。また、—の部分は調音が不可能であるとされている音素である。なお、必ずこの対応表に従うという保証はなく、語の流入経緯によって表記には揺れがあり得る。例えば、ドイツ語のrは発音を基にするとhに訳されやすいが、表記に引きずられてr’で導入されることがある。これは、日本語における「メリケン」と「アメリカン」の違いと似ている。
非円唇,円唇 |
前舌 |
中舌 |
後舌 |
狭 |
/i/,/u/ |
/i/,/u/ |
/u/,/u/ |
半狭 |
/e/,/u/ |
/e/,/u/ |
/u/,/o/ |
中央 |
/e/,/o/ |
/e/,/o/ |
/o/,/o/ |
半広 |
/e/,/e/ |
/e/,/a/ |
/o/,/o/ |
広 |
/a/,/a/ |
/a/,/a/ |
/a/,/a/ |
|
唇音 |
歯茎音 |
後部歯茎、硬口蓋音 |
軟口蓋音 |
破裂音 |
/p/,/b/ |
/t/,/d/ |
/t’/,/d’/ |
/k/,/g/ |
破擦音 |
/p/,/v/ |
/c/,/d’/ |
/t’/,/d’/ |
— |
鼻音 |
/m/ |
/n/ |
/n’/ |
/h/,/g/ |
摩擦音 |
/f/,/v/ |
/s/,/z/ |
/s’/,/z’/ |
/h/,/g/ |
ふるえ音 |
/f/ |
/r’/ |
— |
— |
はじき音 |
/f/ |
/r/ |
— |
— |
接近音 |
/w/ |
/r/ |
/y/ |
/h/ |

イジェール語の単語中の登場回数をまとめた.eが一番多いかとおもいきや,aの方が登場回数が多いのは意外だった.子音はk,s,n,rあたりが多い.濁音は連濁規則があるので,g,zはk,sに合わせて増えている.
作者の想像と,実際の姿には結構ズレがあるということがわかった.
複合語の材料選定
言語には言語ごとに,複合語を作る際の傾向のようなものがある.例えば,日本語は動詞から単独で複合語を為すことは少なく,名詞で主要部を補うことが多い(例:搭乗する→搭乗者,冷蔵する→冷蔵庫).一方,英語の場合は接辞をつけて動詞を名詞化する方法が存在し,それが人なのか物なのかを明示しなくても良い場合が多い(例:ride→rider,freeze→freezer).
イジェール語では,基本的には英語と同様の方法を取る.つまり,派生語を形作ることで動詞から名詞を作っていく.もっと細分化したい場合には,他の名詞を接続して,より複雑な語を形成する.
派生語の生成
イジェール語では,動詞に対して主格,対格,再帰自動詞の主格の3つの項に値する名詞を作る接辞が用意されている.例えば,tireは「主格が,対格の内容を,与格に向かって,話す」という動詞である.この動詞を元にtirom「話者(主格)」,tiresk「発話内容(対格)」が作れる.avvadae「主格が,対格を,爆破する」という動詞からは,avvadaom「爆破者」,avvadaesk「爆発物」,avvadaa「自らを爆破するもの=爆弾(再帰自動詞の主格)」が作れる.さらに,動詞語尾の-eを取り外すことで,その性質自体を指す名詞を作ることができる.tireからはtir「会話,発話」,avvadaeからはavvada「爆破」が作られる.
対象の指定
一方で,これだけでは意味が細分化できない場合もある.例えば,cartigom「運搬者」だけでは何を運搬しているかわからない.「航空母艦」や「タンカー」のように,何を運搬しているかまで含めて複合語を作りたい場合,イジェール語では本来の動詞の対格に来る語を前置して造語する.この際,複合語の最後の単語以外の接辞は全て取り外される.
行為者の指定
前項とは逆に,その名詞がどういう物体なのかを指定したい場合もある.前述の例なら,cartigom「運搬者」だけでは,貨物トラックも貨物船も貨物飛行機も区別できない.こういう場合は,本来の動詞の主格に来る語を後置して造語する.
動詞によらない複合語
いつでも動詞を元に造語できるわけではない.例えば,「花火」には対応する動詞がないので,fabar「火薬」とeda「絵」からfabareda「花火」が作られている.この場合は,右側の要素を左側の要素が修飾する形で語が形成される.
実際の運用
実際には,以上の4つの方法が組み合わさって複合語を形成する.同じ概念を示すのに複数の語が考えられるときは,そのうち出来る限り構成要素が少ない単語が定着しやすい.また,文脈上明らかなときは,複合語の要素が脱落する時がある.例えば,cartigom「運搬者」では車か船か飛行機かわからないとはいえ,わざわざ指定しなければ混乱する場合というのはそう多いものではない.空港で貨物トラックと貨物飛行機を区別する必要がある場合に特別にcartiggarme「運搬車」,cartigvadeaa「運搬飛行機」と呼び替えられるくらいである.
古語の生成傾向
今まで述べたのは現代語の造語傾向であり,古語の傾向は全く異なる.イジェール語はもともとかばん語による形成を基本としており,2音節程度の長さになるように適宜形態素がカットされて新たな形態素となるのが普通だった.また,古い語ほど動詞ではなく形状や役割からくる名詞による造語に頼る傾向がある.例えば箸はgezで箸置きはgezdeaだが,この生成は現代語的ではない.現代語であれば「箸を置かれるもの」という動詞を基本として生成されるだろう.deaという土台を意味する語から生成されているのは,この語の歴史がそれなりに長いからである.
例
実際の例を元になる文章と複合語を示す.
- dukese「理論化する」→dukesesk「理論,論(対格)」,dukes「理論化(性質)」,dukesom「理学者(主格)」
関係を文章で示すと,Ze dukesomef dukesesku dukese f dukes.
- fadeae「飛ばす」→fadeaa「飛行機(再帰自動詞主格)」
cartige「運ぶ」→cartigom「運搬するもの(主格)」,cartigesk「荷物(対格)」
fadeaa+cartigom→fadead’artigom「航空母艦」
空母の例では,再帰自動詞の主格を表す接辞-aは,複合語形成の際に外されている.
- behin「後ろの」+kep「蓋」→behgep「尾栓」
記述詞語尾の-inが取り外され,kが連濁している.
- dur cegiran 「自動ドア」
自動であることを示すために cegiran の接尾辞を保存したいという欲求が高いため cegirdur より好まれる.
口語における省略
日本語でも英語でも,口語においては書き言葉では生じない省略が生じることがある.また,書き言葉としても,小説のセリフ中では省略が生じることがある.本項目では,そういった場合の省略について説明する.
イジェール語では動詞が省略されることはめったにない.この点は英語と似ている.日本語のように「我に力を!」では意味が通じにくい.これは,日本語においては格助詞がある程度固有のイメージや方向性を持っているのに対し,イジェール語における助詞は,あくまで動詞に対してどの項に値するかを示すマーカーでしかないためである.
イジェール語はあくまで動詞を中心として文が構成され,他の要素は動詞を修飾する要素として機能していることを意識すると自然な文章になる.
項の順序
基本的に文中では動詞が最後で,後の項は助詞の項で説明した順序に従う.主格,対格,与格の3つはこの順序で出てくることが多く,時間や空間に関わる格は出発点から到達点に至る方向で並ぶ.
とはいえ,口語に置いてはかなり砕けた順序で並ぶことがある.人によって程度は異なるが,ひどい場合は動詞が最後であることすら守られない場合もある.それでも,関係節内の動詞は(副詞的記述詞がなければ)必ず節の最後に位置する.
本日の変更点は,結構大きな変更点なので記事にも纏めておこう.
- 関係詞zeに格標示機能が追加された.これにより正しく関係代名詞となった.また,fom ze mareが「見た人」なのか「見られた人」なのか曖昧であるという問題も,fom zef mare 「見た人」,fom zu mare 「見られた人」と明示されることで区別が可能になった.
- これに伴い,動詞の連用形は廃止された.元々,fom ze mare = fom maren, fom ze ref mare = fom res maren というように,属格と組み合わせてze節を代用できる用法があったが,これは廃止される.
元々,動詞の連用形を用意したのは,どんなに短い節でもzeを使わないと名詞を修飾できないためであった.日本語なら「見ることをする人」なんてわざわざ言わなくても,「見る人」で良いし,英語なら「a man who watches」なんて言わずとも,「a man watching」で良い.こういう手軽さがイジェール語にも欲しかった.
-enという連用形を用意して,その動作主を属格で表す方法自体は,日本語でも「神の怒りの日」とか,英語でも名詞に近い動名詞なら動作主を所有格で表すことはできるので,特別変わった方法ではない.しかし,イジェール語では-inが「~される状態の」という形容詞,-enが「~する」という意味で区別することになり,能動と受動の区別がiとeという母音ひとつで識別されることになる.これは聞き間違いやすく,ze節の曖昧さを回避するという本来の目的にそぐわない.
結局,「曖昧である」という問題が「聞き取りにくい」という問題に置き換わっただけで,何も変わらない体系では意味が無い.そこで,今回の変更に至った.
これで問題があるかどうかは,もう少し例文を交えて考えていくことにしたい.
辞書・フォントDLページを公開してみた.一応web辞書は公開しているものの,PDIC用の辞書そのものを公開しておいたほうが,便利なようである.
あと,フォントはこれは確実に公開しておいたほうが便利だろうと思うので公開してみる.
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