「ハーモニー」読了・紹介
- 2014年10月26日
- 書評
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【ハーモニー:伊藤計劃 著】読み終わった.とても面白かった.前に感想を書いた虐殺器官と同じ,伊藤計劃の作品である.前と同じく,ネタバレにならないようにあらすじと見どころを書く.
主人公である霧慧トァンが,未曾有の大事件の真相を掴むべく,事件の陰を追っていく話.注目すべきは舞台設定である.この社会は2060年頃の地球で,大災禍と呼ばれる事件が起きた後,過剰に人々に健康を強いるユートピア的社会である.人々は管理され,社会のリソースであることを強要されている.人類の殆どは体内に仕込んだWatchMeと呼ばれる管理ソフトと,メディケアと呼ばれる万能薬品合成機器によって病気や怪我で死ぬことは殆どなく,老衰が主な死因となっている.公園の遊具ですら,落ちる子供をキャッチし,ぶつけそうな部分は自発的に避けるようになっており,社会全体が「優しさ」に満ちあふれている.この社会は,明文化されたルールとしての管理社会ではないのだが,大災禍によって刻みつけられた無秩序への恐怖心が,全体主義的雰囲気を更に後押ししている.人々は自発的に自らの機能を外注し,自らをただ最適に生存するだけの機械と化させている.そこには一切の愚行権は無い.
高校時代のトァンの友人であるミァハは,過剰に優しい世界を嫌悪し,自らの身体を公共のリソースとして扱うことを嫌悪している.そして,世界にとって自らが大切なリソースであるからこそ,世界への反逆としての自殺を試みる.ミァハは自らの反逆を社会へ知らしめるため,同志であるトァハとキアンに自殺の話を持ちかける.
……ネタバレにならない範囲で紹介するのはこの辺りで精一杯である.付け加えておくと,話のメインはトァハが大人になってからの話であり,少女達のジュブナイル的な話が延々と続くわけではない.ハーモニーは虐殺器官とある程度繋がりを持っており,人間をモジュールの連合体であると捉える考え方などは虐殺器官の主題と関わってくる.とは言え,どちらも単体で完成している話なので,読んでいなくても問題はない.
最終的に,人の意識とは何なのか,かつて無いほどに均質性と社会性を高めた世界にあって,個人としてのヒトに如何に価値が有るのかという話に繋がっていく.面白いので,是非読みましょう.