何年か前に買った本だが,面白いので紹介しておく.
この本が扱う内容については,「はじめに」を読めばだいたい分かる.なか見!検索で閲覧することが出来るが,その一部を引用して紹介する.
例えば,留学を希望している大学生がアメリカ人の英語の先生に推薦状をお願いするという場面を想像してみて欲しい。あなたならなんと言って推薦状を依頼するだろうか。「推薦状を書いて下さい。」と言うつもりで”Write a letter of recommendation for me, please.”と言う人や,「推薦状を書いてほしいのですが。」という日本語を訳して”I want you to write a letter of recommendation for me.”と言う人もいるかもしれない。
これらの文は,文法的に正しい英語の文であり,正確な発音で発話されたとしたら,推薦状を書いて欲しいというあなたの願いは,相手(先生)に十分伝わるはずだ。しかし,もしかしたらあなたの依頼は断られるかもしれないし,引き受けてもらえたとしても良い推薦状を書いてもらえないかもしれない。…(中略)…多くの母語話者にとって学生が先生に対して推薦状を依頼するという状況ではかなり失礼な言い方だと感じられるからである。(後略)
上の例では,外国語でコミュニケーションを成功させるためには,発音,文法,語彙などの知識以外に,少なくとも,実際に言葉を使う状況や場面,相手との人間関係などに照らして適切な言い方で話せる能力が必要なことを示唆しているといえるだろう。
(太字は原文では傍点)
第1部では理論やデータの収集方法についての紹介,第2部では異文化間語用論として,各言語間における規範の差異について紹介している.例えば謝罪表現を選択する際,日本語では「親疎関係」「上下関係」「事態の深刻さ」によって表現を使い分けるが,オーストラリア英語では「事態の深刻さ」のみに依存する……というような知見が紹介されている.第3部では,中間言語語用論として,はこういった学習者の母語における規範と,第二言語における規範がどの程度影響するのかの例が,「語用論的転移」という概念を中心に述べられている.転移とは,母語における規範を第二言語においても拡張して用いることで,例を挙げると,英語では”Thank you”に相当する表現を使うべき場面で,日本語母語話者の英語学習者が”I’m Sorry”を使ってしまうような現象を指している.
本書では,語用論やデータ収集方法ごとのバイアス等について詳しくない読者でも,順を追って読んでいけば理解できるように配慮されている.主な読者としては,外国語学習や教育に関わる大学生や大学院生を想定して書かれているそうだが,様々な外国語に興味がある人間のみならず,言語学に興味がある人や異文化コミュニケーションに興味がある人が読んでも面白いと思う.
【諦める力/為末 大】読み終わった.男子400メートルハードルのメダリスト,為末元選手が書いた啓発(?)本.私は普段,自己啓発本は全く読まないのだが,Twitterでの為末さんのつぶやきを見ていて,興味を惹かれたので読んでみた.かなり面白い本だったので,内容をまとめつつ感想を書いた.
喩え話や具体例も載っていて読みやすいので,成長や継続にとらわれて苦しいと感じている人にはいい本だと思う.
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【完璧な涙/神林長平 著】を結構前に読み終わった.感情が一切ない少年である宥現,と魔姫と呼ばれる旅の女が,「それ」と呼ばれる古の戦車からの逃走劇を軸に,感情と時間について思いを巡らせる作品.
核心についてはネタバレなしで紹介しておく.
かなり難解な話だった.正直,戦闘妖精・雪風シリーズよりよほど難しい.また,主人公の宥現は本当に感情がないという珍しいキャラクターだ.雪風の主人公,深井零も情動が薄いように書かれるものの,クールに振舞っている零とは違って,完全に人間味がない.雪風というマシンと零という人間の対比が面白い戦闘妖精・雪風と比べて,「完璧な涙」の宥現と「それ」は完全に同じ立場にある.
少しづつ読むと意味不明になるので,一気に読むのがオススメ.幸い,文章自体が読みにくいわけではなかった.
【天地明察:冲方丁 著】を読み終わった.改暦に関する話というよりは,渋川春海伝といったほうが正確な気がする.軍事政権の独裁者としての武士から,文治政治の主である文官としての武士への変革の時代を生きた人間の話だ.
暦の具体的な計測方法だとか,計算方法についての具体的な描写が出てくるわけではない.メインは渋川春海がたくさんの天才たちや秀才たちと出会うことで受けた驚きや,人生の変化を追っていく話である.
伝記が好きな人にはオススメだと思うし,単純に描写が美しいと思うことが多かった.そもそも,自分はあまり伝記を読む人間ではないが,それでも面白いと感じた.
【虐殺器官:伊藤計劃 著】を読み終わった.
ネタバレにならない範囲であらすじを述べておく.この小説は,アメリカ情報軍所属の特殊部隊員である主人公,クラヴィス・シェパード大尉が世界中の虐殺を先導して回る「ジョン・ポール」なる人物を追いながら,その真意に迫っていく物語だ.
物語の道具としては,サピアウォーフの仮説をはじめとした言語の本能に纏わる話,進化と良心や虐殺や倫理観に纏わる話,脳や意識は決して一枚岩ではなくモジュールが連合して動いているのだという話が用いられる.利己的遺伝子についての話を知っていると,理解の助けになるだろう.
自分には,最初この話は2つの主題があるように見えた.ひとつは,クラヴィス大尉が思い悩む「死者の国」についての話で,もうひとつはジョン・ポールを中心とした虐殺と進化についての話だ.でも,この2つの物語は後半で交錯して来る.そして,そこから最後に至る展開は怒涛としか言えない.
とても面白い話だった.
【BEATLESS:長谷敏司 著】読み終わった.とっても面白かった!これはぜひ読んでほしいので,ネタバレなしでいける部分だけ感想書いておこう.
ストーリー自体は一言でいうと「美少女ロボットが降って来て,冴えない男と同居生活する」っていう始まり方をする.でも,話の途中でなぜそうなったかの経緯が説明されていて,特に不自然のない話になっている.やっぱり全編通して一番面白かったのは,「アナログハック」の概念だと思う.ふつう人間は,人間の定義があいまいで,人の”カタチ”をしたものに対してはこころを開いてしまうという”セキュリティホール”がある.だから,人のカタチをしたものであれば,上手く振る舞うことで”カタチ”と”意味”の対応を意図的にズラして,人間のこころに本来無意味なモノ,無価値なモノに価値を埋め込んで誘導することができる…というのがアナログハックの概要.この概念は小説中では非常に重要で,攻殻機動隊で言えば「ゴースト」と同じくらい,話の根幹に関わる.
話の着地点,方向性としては「戦闘妖精・雪風」と同じ方向へ進んでいき,「攻殻機動隊」とは真逆の結論に至る.「なぜ?」という部分を覗き込んでいくことで話が進み,恐ろしい背景に至って成長していく過程は「マルドゥック・スクランブル」に似ていると思う.これらの作品に興味ある人は,読んでて面白いと思うよ!
【新世界より下:貴志祐介】読み終わったの自体は結構前だけど,読み終わった.思いっきりネタバレするのでいきなり格納.
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