Starlight Ensign

「青い星まで飛んでいけ」読了・紹介 (2)

【青い星まで飛んでいけ:小川一水 著】読み終わった.短編集で,

  1. 都市彗星のサエ
  2. グラスハートが割れないように
  3. 静寂に満ちていく潮
  4. 占職術師の希望
  5. 守るべき肌
  6. 青い星まで飛んでいけ

の6篇で構成される.これの続き.

ネタバレを含むので格納.
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「青い星まで飛んでいけ」読了・紹介

【青い星まで飛んでいけ:小川一水 著】読み終わった.短編集で,

  1. 都市彗星のサエ
  2. グラスハートが割れないように
  3. 静寂に満ちていく潮
  4. 占職術師の希望
  5. 守るべき肌
  6. 青い星まで飛んでいけ

の6篇で構成される.

全体的に文章は口語的表現もあり,軽快である.しかし,口語的な表現が地の文に出てくるのは,語り手である主人公の性格が陽気である場合に限られているようである.その意味では,文章の雰囲気が作品によって変わる著者のようだ.また,壮大な仕掛けや絶大な技術力を持った世界を背景としつつ,話の本筋はあくまで主観的満足や個人の想いにフォーカスしたものが多い.ハードSF系では,個人の想いに焦点を当てたとしても,結局はその個人の行動と人類の命運が一緒になってしまったりすることが多いので,この点も特色と言っていいと思う.

ネタバレを含むので格納.長くなったので前半3篇について書く.続きはこれ

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「分析哲学講義」読了・紹介

【分析哲学講義:青山 拓央著】を読み終わった.以前から,ロジバン関係の話題で分析哲学や言語哲学についての話を目にすることが多かったため,分野としては気になっていた.しかし,この手の学問は入門書を探すのが難しく,どこから手を付けたものかと迷っていた.この本は,「分析哲学とは何か」から,現在もさかんに論じられるトピックについてをおおまかに知ることが出来る.個々の哲学者の詳細な意見にまでは触れられないが,基本的な考え方や,主要な哲学者の観点については十分に解説されている.

この本で触れられている分析哲学の主要トピックは,

  1. 「意味」とは何か
  2. 「心・意識」とは何か
  3. 「今」とは何か

の3点にまとめることができる.意味の話を突き詰めると言語哲学に接続していき,心の話を突き詰めると心の哲学に,今と時間に関する話を突き詰めると時間と時空の哲学に細分化していく.

自分のことを「理屈っぽい」と思う人には,おすすめできる本である.「哲学なんて馬鹿馬鹿しい,そんなものは不要だ」と考える人にも,一読の価値はあるかもしれない.哲学の価値についてコメントしたくなる人は,哲学に一歩足を踏み入れているからだ.「哲学なんてどうでもいい」と考える人よりは,哲学に近い位置に居るだろう.

科学に重きを置く人,特に工学よりも理論を研究する分野の科学者にとっても,これらの話題は重要であると思う.特に,「時間は過去から未来に向かって流れるものだ」という常識的な考え方が,数式や法則の解釈を誤らせる可能性については,心に留めておく必要がある.時間の話題ほど直接的ではなくとも,意味に関する諸問題は,科学において重視される再現性と連続している.一見対局に位置するように思われる哲学と科学だが,その領域は連続的につながっている.

巻末には参考文献や,本書の内容に興味を持った人が次に読むべき本についてまとめられている.入門書としては非常に良いものであると感じた.

「My Humanity」 あらすじ・感想(2)

【My Humanity/長谷敏司 著】を読み終わった.BEATLESSの著者の作品.この記事の続き.

本作品は短篇集で

  1. 地には豊穣
  2. allo,toi,toi
  3. Hollow Vision
  4. 父たちの時間

の4篇構成である.この記事では後半の2篇について,あらすじと感想を書いた.

ネタバレを含むので格納.
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「My Humanity」 あらすじ・感想

【My Humanity/長谷敏司 著】を読み終わった.BEATLESSの著者の作品.

この人の作品はBEATLESSに続いてふたつ目だけど,言語と認識に関わる話に傾倒しつつ,化学的・社会的な機能や役割に落とし所を求めていく手法は伊藤計劃とかなり似ている.言葉へのこだわりが強い部分や,機械と人間の違いを克明に描く点は神林長平とも似ているけど,落とし所をどこに求めるかは大きく違うように思う.

本作品は短篇集で

  1. 地には豊穣
  2. allo,toi,toi
  3. Hollow Vision
  4. 父たちの時間

の4篇構成である.この記事でははじめの2篇について,あらすじと感想を書いた.後編はこちら

ネタバレを含むので格納.
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「ハーモニー」読了・紹介

【ハーモニー:伊藤計劃 著】読み終わった.とても面白かった.前に感想を書いた虐殺器官と同じ,伊藤計劃の作品である.前と同じく,ネタバレにならないようにあらすじと見どころを書く.

主人公である霧慧トァンが,未曾有の大事件の真相を掴むべく,事件の陰を追っていく話.注目すべきは舞台設定である.この社会は2060年頃の地球で,大災禍と呼ばれる事件が起きた後,過剰に人々に健康を強いるユートピア的社会である.人々は管理され,社会のリソースであることを強要されている.人類の殆どは体内に仕込んだWatchMeと呼ばれる管理ソフトと,メディケアと呼ばれる万能薬品合成機器によって病気や怪我で死ぬことは殆どなく,老衰が主な死因となっている.公園の遊具ですら,落ちる子供をキャッチし,ぶつけそうな部分は自発的に避けるようになっており,社会全体が「優しさ」に満ちあふれている.この社会は,明文化されたルールとしての管理社会ではないのだが,大災禍によって刻みつけられた無秩序への恐怖心が,全体主義的雰囲気を更に後押ししている.人々は自発的に自らの機能を外注し,自らをただ最適に生存するだけの機械と化させている.そこには一切の愚行権は無い.

高校時代のトァンの友人であるミァハは,過剰に優しい世界を嫌悪し,自らの身体を公共のリソースとして扱うことを嫌悪している.そして,世界にとって自らが大切なリソースであるからこそ,世界への反逆としての自殺を試みる.ミァハは自らの反逆を社会へ知らしめるため,同志であるトァハとキアンに自殺の話を持ちかける.

……ネタバレにならない範囲で紹介するのはこの辺りで精一杯である.付け加えておくと,話のメインはトァハが大人になってからの話であり,少女達のジュブナイル的な話が延々と続くわけではない.ハーモニーは虐殺器官とある程度繋がりを持っており,人間をモジュールの連合体であると捉える考え方などは虐殺器官の主題と関わってくる.とは言え,どちらも単体で完成している話なので,読んでいなくても問題はない.

最終的に,人の意識とは何なのか,かつて無いほどに均質性と社会性を高めた世界にあって,個人としてのヒトに如何に価値が有るのかという話に繋がっていく.面白いので,是非読みましょう.

「中間言語語用論概論」の紹介

何年か前に買った本だが,面白いので紹介しておく.

この本が扱う内容については,「はじめに」を読めばだいたい分かる.なか見!検索で閲覧することが出来るが,その一部を引用して紹介する.

例えば,留学を希望している大学生がアメリカ人の英語の先生に推薦状をお願いするという場面を想像してみて欲しい。あなたならなんと言って推薦状を依頼するだろうか。「推薦状を書いて下さい。」と言うつもりで”Write a letter of recommendation for me, please.”と言う人や,「推薦状を書いてほしいのですが。」という日本語を訳して”I want you to write a letter of recommendation for me.”と言う人もいるかもしれない。

これらの文は,文法的に正しい英語の文であり,正確な発音で発話されたとしたら,推薦状を書いて欲しいというあなたの願いは,相手(先生)に十分伝わるはずだ。しかし,もしかしたらあなたの依頼は断られるかもしれないし,引き受けてもらえたとしても良い推薦状を書いてもらえないかもしれない。…(中略)…多くの母語話者にとって学生が先生に対して推薦状を依頼するという状況ではかなり失礼な言い方だと感じられるからである。(後略)

上の例では,外国語でコミュニケーションを成功させるためには,発音,文法,語彙などの知識以外に,少なくとも,実際に言葉を使う状況や場面,相手との人間関係などに照らして適切な言い方で話せる能力が必要なことを示唆しているといえるだろう。

(太字は原文では傍点)

第1部では理論やデータの収集方法についての紹介,第2部では異文化間語用論として,各言語間における規範の差異について紹介している.例えば謝罪表現を選択する際,日本語では「親疎関係」「上下関係」「事態の深刻さ」によって表現を使い分けるが,オーストラリア英語では「事態の深刻さ」のみに依存する……というような知見が紹介されている.第3部では,中間言語語用論として,はこういった学習者の母語における規範と,第二言語における規範がどの程度影響するのかの例が,「語用論的転移」という概念を中心に述べられている.転移とは,母語における規範を第二言語においても拡張して用いることで,例を挙げると,英語では”Thank you”に相当する表現を使うべき場面で,日本語母語話者の英語学習者が”I’m Sorry”を使ってしまうような現象を指している.

本書では,語用論やデータ収集方法ごとのバイアス等について詳しくない読者でも,順を追って読んでいけば理解できるように配慮されている.主な読者としては,外国語学習や教育に関わる大学生や大学院生を想定して書かれているそうだが,様々な外国語に興味がある人間のみならず,言語学に興味がある人や異文化コミュニケーションに興味がある人が読んでも面白いと思う.