Starlight Ensign

テンスとアスペクト

テンスとアスペクト

イジェール語では相と態を動詞末尾の-eを変化させることで表す.ここでは,相について説明する.

テンス

イジェール語には時制がなく,その時点で状態が終了しているか否かを判断して適切なアスペクトを用いる.その際,時間を示す記述詞や句を伴っていない場合は,現在であることが含意される.つまり,開始相を用いた場合は「今まさに開始時点である」ことが,進行相を用いた場合は「今まさに状態遷移中である」ことが含意される.

アスペクト

基本アスペクトは原型(無相),未然相,開始相,進行相,完了相,状態相,完結相,経験相の8種類ある.これらのうち,開始~状態は事象の内部局面を表す相であり,未然・完結・経験は事象をより広い観点から見た相である.

相の名前 活用語尾 意味
原型(無相) -e ~する
未然相 -destin ~し出す前である
開始相 -des ~し出す
進行相 -ettin ~し出して,状態遷移中である
完了相 -et ~の状態遷移が完了し,状態が始まる
状態相 -etra ~の状態である
完結相 -ittera ~の状態が既に終了している
経験相 -ar ~したことがある

原型(無相)を用いるのは,事象の局面に特に注目しない場合と,事象の局面が定まらない場合のふたつである.前者の例としては,時間によらない真理を述べる場合や,動作そのものを指示対象とする場合などが挙げられる.後者の例としては,習慣的・周期的に行われる場合や,伝聞で今どのような状態かがわからない場合などが挙げられる.

アスペクト

図示すると上掲のようになる.過去には-itteで表される終了相が存在したが,現在は廃用である.状態が終了した瞬間を指す機会は少なく,実際の使用局面では「既に終了してある状態」を指す事のほうが多い.これに対応するのは終了相ではなく完結相であるため,終了相は用いられなくなった.

ある動詞が終了する局面について述べたい場合は,状態遷移の方向を反転させる接頭辞am-を用いた動詞を使用する.例えば,saime「泳がせる」に対して,amzaimeは「泳ぎ終わらせる」に対応する.

イジェール語の動詞は基本的に状態遷移動詞である.状態遷移動詞とは,対象の状態をある状態から別の状態に変化させる動詞のことを指す.例えば,saimeは「泳がせる」という動詞だが,正確には「対象を水泳状態に移行させる」という意味を持つ.このため,完了相は「対象が水泳状態に移行完了した状態」と言う意味になり,日本語で言う「泳ぎ始める」は完了相となる.同様に,akzeは「出発させる」を意味するのが,正確には「対象を出発状態に移行させる」という意味なので,完了相は「出発状態への移行が完了する」となり,日本語では「出発した」に対応する.日本語の動詞とイジェール語の動詞では,定義の中心がずれていることに十分な注意が必要である.

  • Ref mas’uu maretra. | 私は放送を見ている.
  • Ref mas’uu mardes. | 私は放送を見始める.
  • Ref mas’uu marittera. | 私は放送を見終わっている.
  • Ref mas’uu mardestin. | 私は放送を見る(まだ見ていない).
  • Ref ze mas’umu mare u reeke. | 私は放送を見るのが好きだ.
  • S’af ze mas’uu mare u tiret. | 彼は放送を見るのが好きだと(今まさに)言った.
  • S’af ze mas’uu mare u tirittera. | 彼は放送を見るのが好きだと(過去のある時点で)言っていた.

完了相と完結相

イジェール語では,動作が終了してその影響が残っているかどうかに注目する場合は完了相を用い,影響が残っているか否かにかかわらず,動作が終了済みであることを示すときに完結相を用いる.

日本語の過去には完了と完結の意味が混ざって存在しているため,翻訳の際には注意が必要である.

瞬間動詞と非瞬間動詞

イジェール語の状態遷移動詞は2種類に分類でき,瞬間動詞非瞬間動詞に分類される.例えば,saime「泳がせる」という動詞は,「泳がされた状態」への移行段階がなく,泳ぎ始めた瞬間に泳ぎ状態への移行が完了する.ゆえに,瞬間動詞となる.一方でansere「成形する」という動詞は,「成形された状態」に至るまでの途中段階が存在する.このため,非瞬間動詞となる.瞬間動詞は開始相と進行相を欠き,開始前である未然相の次の段階は完了相となる.

しかし,友人に「もう泳いでる?」と聞かれて,現在着替え中のときに「泳ぎ始めようとしてる」と返答することはできる.「着替え」は厳密には泳ぐこととは無関係ではあるものの,ざっくり捉えれば泳ぐという行為の一段階と捉えることもできる.話者がこのように捉えた場合,saimeは瞬間動詞ではなくなり,開始相と進行相を取ることができるようになる.

このように,瞬間動詞と捉えても問題ない動詞をわざわざ非瞬間動詞と捉えて開始相や進行相を用いると,開始相や進行相を状態遷移に時間がかかるため時間がかかっても仕方がない,時間を稼ぎたいと言う意図が伝わることになる.

新出単語

品詞 単語 音素 発音 意味
名詞 mas’u /mAs’u/ マーシュ 放送
動詞 tire /tIre/ ティーレ (内容を)言う,話す
動詞 saime /saIme/ サイーメ 泳がせる
動詞 akze /Akze/ アークゼ 出発させる,向かわせる

動詞

動詞は-eで終わる形が原型で,「ある状態へ対象(対格)を移行させる」が最も基本的な意味となる.

動詞の活用

動詞は相と態によって語尾が変化する形で活用する.命令形は語尾が-aになり,相の活用を失う.また,命令形と関係なく調子を揃えるために語尾が-aになる例がある.

  • Ref narau mare sorin.|私には貴方が見える.
  • Ref narau maretra.|私は貴方を(今まさに)見ている.
  • Ref fom zu naraf maretra u sedoetra.|貴方が見ている人を私は知っている.
  • Ref maresku sedoetra.|私は見られた人を知っている.
  • Mara, kun iz’ihamiriu.|見よ,この楽園を.(倒置)
  • Mevera,mevere!Uegia,adura!|回れや回れ!歌えや踊れ!

自他による分類

イジェール語では通常の動詞はすべて他動詞で,頭にmir-をつけた場合に再帰自動詞化する.このmirは文脈上明らかな要素のほとんどが省略可能なイジェール語では数少ない例外である.ただし,目的語+他動詞からなる複合語はmir-なしで自動詞として扱うことができる.

  • edoke|(対格にとった語を)歩かせる
  • miredoke|歩く
  • ome|(対格にとった語を)製造する
  • dingome|発電する(ding+omeからなる複合語で,自動詞.)
  • ko-narie|食べて寝る(koe+o+narie)

新出単語

品詞 単語 音素 発音 意味
法性記述詞 sorin /sOrin/ ソーリン (能力的に)~できる
名詞 fom /fOm/ フォーム 人,人物
動詞 sedoe /sedOe/ セドーエ 知る,知っている
名詞 iz’ihamiri /iz’ihamIri/ イジハミーリ 楽園
動詞 mevere /mevEre/ メヴェーレ 回転させる
動詞 uegie /uwegIe/ ウウェギーエ 歌わせる
動詞 adure /adUre/ アドゥーレ 躍らせる
動詞 edoke /edOke/ エドーケ 歩かせる
動詞 ome /Ome/ オーメ 作る,製造する
名詞 ding /dIng/ ディーング 電気
動詞 dingome /dIngOme/ ディーンゴーメ 発電する

助詞(後置詞)と格

助詞とは、いわゆる後置詞である。英語の前置詞、日本語の助詞と同様の働きをし、名詞の文中における役割を示す。名詞に対しては接尾辞の様に接続させて書き、その他の品詞の後ろにつく際は離すのが正式な書き方である。句や節を修飾する際は、最後の単語が名詞なら助詞は分かち書きせずそのままつける。一方、最後の単語が記述詞や動詞なら、助詞はスペースを空けて分かち書きする。

下表において、カッコでくくられている母音は、名詞が子音で終わった場合にのみ現れる。

表記 対応する日本語助詞
(厳密には意味が異なる場合がある)
主格 -(e)f は、が
属格 -(i)s の(所有)
対格 -u
与格 -ni に、へ(目的地)、(時間、場所)まで
呼格 -a よ(呼びかけ)
奪格 -hur (人、物)から
出格 -ur (場所、時間、数)から
処格 -ra (場所、時間)で
向格 -nir の方向へ、(数)まで
経由格 -di (場所)を通って、(期間)を通じて
具格 -du (手段)で、(理由)で
駆動格 -tim (人、物、事)の目的で、(人、物、事)が原因で
使役格 -ior (人)によって

これらの内、特に主格、対格の2つは主要格と呼ばれる。

呼格による格標示の上書き

呼格は他の格を上書きしてしまう。要するに日本語の「~よ」と使い方は同じである。また、文頭に持ってくることが多い。文頭に呼格が現れた場合、その直後には読点を打つ。

例文/訳文 着目すべき点
Pabria, kuu mare. | 人々よ、これを見よ。 元の文”Pabrif kuu mare”の主格助詞が呼格に上書きされて消えている。
Ref kuvera fuk dirin ur fuk badon ni mirafe. | 私はここで赤い列車から青い列車に乗り換える。 出格の-urが記述詞の後ろにあるため、離して書く。
Ref 2s u reeke. | ふたり目が好みだ。 2sの後にはfom(人)が省略されている。この場合は対格のuは離して書く。

発音上の注意点

いくつかの代名詞は、格変化した際に綴りと一致しない特殊発音となる。アクセント位置が通常と異なるものもあるので、注意が必要である。

表記 発音
reu /rU/
rea /rA/
meu /mU/
mea /mA/
narau /narU/
naraa /narawA/

新出単語

品詞 単語 音素 発音 意味
名詞 pabri /pAbri/ パーブリ 人々
動詞 mare /mAre/ マーレ 見る
名詞 fuk /fUk/ フーク 列車
記述詞 dirin /dIrin/ ディーリン 赤い、赤く
記述詞 badon /bAdon/ バードン 青い、青く
動詞 afe /Afe/ アーフェ 乗り換えさせる
動詞 reeke /rewEke/ レウェーケ 好む

代名詞と疑問詞

代名詞

イジェール語に於ける代名詞を下表に示す.不定称とは「誰か」や「何か」にあたる語で,疑問代名詞は別にある.複数形は一般名詞と同様 -(a)ri を複数接辞として規則的に適用する.

人称 基本形 クラス
1人称 re
2人称 me 親称
nara 敬称
3人称 s’a 有生
su 無生
不定称 dega 有生(誰か)
nega 無生(何か)
否定 mod 有生(Nobody)
mong 無生(Nothing)
全称 mad 有生(Everybody)
mang 無生(Everything)

naraは正確には敬称ではなく疎称と言ったほうが正確で,地位や立場が話者から見て離れていることを示している.なので,「お前は何を言ってるんだ」や「てめえの好きにしろ」はnaraで表す.話者が相手を突き放していることを示していると見ても良いし,皮肉っていると見ても良い.本来親称を使っても良い場面で敬称を使用すると,罵倒になり得るということである.

指示代名詞

指示代名詞および疑問代名詞は下表の体系となっている.

事物 場所 時間 記述詞
近称 ku kuve kuc kun
遠称 tu tuve tuc tun
不定称 nega neve nec nen
否定 mong move moc mon
全体 mang mave mac man

記述詞は「この様な/この様に」といった意味を持つ.

疑問詞

単語 意味
sefom
seven
seve どこ
sezik いつ
setem どのくらいの期間
sera どちらか,いずれか

品詞と語順

品詞

品詞は名詞,動詞,記述詞,助詞,接続詞,間投詞の6種である.
記述詞は名詞につけば形容詞的用法,動詞や形容詞につけば副詞的用法となる.基本的に文脈で判断する.
接続詞は文の構成要素同士の関係を示す.節と節,句と句など,同等のものを並べるのがふつう.
助詞は付属語で,名詞相当句なしに用いることはできない.基本は後置だが物によっては前置する.
間投詞はそれ単体で感嘆文として成立し得る語である.挨拶や,「えーと」「いやー」等の反応に相当する.

語順

語順は主語,目的語,動詞の順に単語を置くSOVである.助詞は後置し,修飾語は後置する.ただし,記述詞の内の一部と所有属格(-s)は前置する.これにより,日本語とも英語とも異なった語順になる.

音節

開音節,閉音節の両方を持つので,日本語のように全部母音で終わるということはない.子音をC,母音をVで表記すると,CCVCCが最長である.日本語のCVよりは長く,英語のCCCVCCC(strengthenなど)よりも短い.

文字と発音

文字

イジェール語の表記には、5母音15子音からなるイジェール文字を用いる。

イジェール文字には大文字と小文字があるが、大文字が用いられることはほとんどない。大文字が用いられるのは

  1. 文の頭文字
  2. 文章中の強調
  3. 接続詞を除く、固有名詞句の各単語の語頭
  4. 略語

等である。書籍や映画のタイトルは、固有名詞と同様に表記する。いずれの用法も外国語の影響によるもので、本来のイジェール文字にはなかった用法である。

HKS順

母音を上段に、子音を下段3段にわたって表記するのが正式な文字順序である。この順序はmakudi HKSn (hekesen)と呼ばれる。表記の都合で一列に表示される場合はeaoiuhkstcnrmpfgzdbvで表される。なお、辞書順としては変音記号が無視されるため、teh、t’ek、tesは左記の順に並ぶ。

文字表と代用表記

一般的に用いられる文字表は、このような順序で表記される。上が大文字で、下が小文字である。

文字

代用表記を下に併記する。

e a o i u
h k s t c
n r m p f
g z d b v

cはツァ行の転写記号としているので、注意が必要である。

また、ダイアクリティカルマークの「’」は変音記号と呼ばれており、特定の子音について発音を変化させる。s, t, c, n, z, dは調音点が後退し、rだけは巻き舌のrに変化する。変音記号付き文字は通常リスト化されないが、表にすると以下のようになる。

s’ t’ n’ r’ z’ d’

近年では母音に付く場合もある。母音に変音記号が付く場合、その音節にアクセントが移動する。この表記法は特に外来語の表記に用いられる。

文字と発音

音素表記上で大文字・小文字の差が音声の差を表すことはない。なので、アクセント位置の母音を大文字にして示すことがある。子音の中には有気音であるとの記載があるものがあるが、イジェール語では有気音か無気音かは弁別性を持たない。強勢がある母音の直前の子音は有気音として発音されるが、それ以外の子音は全て無気音として発音されるのが普通である。

文字 文字名称 読み(文字名称) 標準音価(IPA) 音素表記 発音上の注意
e e エー [ɛ][e̞] /e/ 日本語のエよりアに近い。強勢が無い場所では日本語と同じ。
a a アー [a] /a/
o o オー [ɔ][o̞] /o/ 日本語のオより口の奥をを丸く開く。強勢が無い場所では日本語と同じ。
i i イー [i] /i/ 日本語のイよりも口を平たくする。
u u ウー [u] /u/ 日本語のウよりも唇を丸めて突き出す。
h he ヘー [x] /h/ 喉の奥を接近させてから開放して出す「ハ」。
k ke ケー [kʰ][k] /k/ 強勢がある場合、子音を発音してから母音を発音するまで溜めがある(有気音)。
s es エス [s] /s/
t te テー [tʰ][t] /t/ 強勢がある場合、子音を発音してから母音を発音するまで溜めがある(有気音)。
c ce ツェー [t͡sʰ][t͡s] /c/ 強勢がある場合、子音を発音してから母音を発音するまで溜めがある(有気音)。
n ne ネー [n] /n/
r er エル [ɾ] /r/ 日本語のラ行と同じ。
m em エム [m] /m/
p pe ペー [pʰ][p] /p/ 強勢がある場合、子音を発音してから母音を発音するまで溜めがある(有気音)。
f fe フェー [f] /f/
g ge ゲー [g] /g/
z ze ゼー [z] /z/
d de デー [d] /d/
b be ベー [b] /b/
v ve ヴェー [v] /v/
t’ t’e チェー [t͡ʃʰ][t͡ʃ] /t’/ 文字名称はt cienzin(変音t)ということもある。
s’ s’e シェー [ʃ] /s’/ t’同様にs cienzinとも。以下同様。
n’ n’e ニェー [ɲ] /n’/
r’ er’ エル [r] /r’/ 巻き舌のr。
d’ d’e ヂェー [d͡ʒ] /d’/ ジャ行が語頭に来たときの子音と同じ。舌を上顎につけて、一旦閉鎖する破擦音。
z’ z’e ジェー [ʒ] /z’/ ジャ行が母音に挟まれた時の子音と同じ。舌は上顎につかず、空気が抜ける音がする摩擦音。
[j] /y/ ヤ行の子音。半母音扱いで、対応した文字はない。
[β̞] /w/ ワ行の子音。半母音扱いで、対応した文字はない。

半母音挿入

母音が連続した場合、半母音が挿入されることがある。これらの綴りでは(例え単語を隔てていたとしても)義務的に発生する。

綴り 実際の発音
i+母音 /iy/+母音
ii /iwi/
u+母音 /uw/+母音
aa /awa/
oa /owa/
oo /owo/

以下はどちらかの母音に強勢がある場合のみの半母音挿入である。

e+母音 /ew/+母音

品詞 単語 音素 発音 意味
記述詞 akserin /aksErin/ アクセーリン 戦いの
名詞 asderi /asdEri/ アスデーリ 歴史
名詞句 asderi akserin /asEriyaksErin/ アスデーリヤクセーリン 戦いの歴史
名詞 veesvedena /veesvedEna/ ヴェエスヴェデーナ 衛星
名詞 neer /nEwer/ ネーウェル
名詞句 Ziranda Erdesan /zirAndaerdEsan/ ズィラーンダエルデーサン ニュージーランド