Starlight Ensign

イジェール語更新(主要格の定義変更,終了相の廃止)

本日変更を行った点の覚書.変更の原因や目的についても記す.

主要格の定義変更

主要格の定義を「主格,対格,与格,属格の4つ」から「主格,対格の2つ」に変更した.この変更の目的は,所有属格による動名詞の過剰な多義化を防ぐことにある.

元々,イジェール語における動名詞は所有属格と記述属格の双方で修飾することが出来る.所有属格によって修飾された場合,修飾している名詞は動名詞に対して主要格として振る舞うことが想定される.記述属格によって修飾された場合,修飾している名詞は動名詞に対して主要格以外として振る舞う.例えば,arka「怒り」に対して,re「私」を用いて,res arka「私の怒り」と,arka ren「私の怒り」の二種類の修飾が可能である.前者はarkae「(主格が対格を)怒らせる」に対する主要格として振る舞うので,res arkaは「私が怒ること」「私を怒ること」の2つの意味を持つ.arka renは「私のために怒る」「私のことで怒る」等の解釈が可能である.この例では主要格が4つであろうと2つであろうと差はないが,取りうる格が多いafe「(主格が対格を奪格から与格に対して処格で出格を出発地点として向格を目的地として)乗り換えさせる」等の場合,res afeの意味は「私が乗り換えさせること」「私が乗り換えること」「私に乗り換えること」と過剰に多義化する.また,この例から明らかなように,属格が主要格に数えられている意味は無い.これを防ぐため,主要格は2つとなった.

終了相の廃止

以前おかゆと話していて,イジェール語は相体系が後方側に詳しすぎるという問題を認識していた.これは,状態遷移動詞を中心に組み立てられたイジェール語の体系に対して,その遷移後状態の終了点を相で表すのはおかしいという観点での話だ.例えば,「立ち上げる」という動詞を考えると,「立ち上げ終わる」=「立ち上がった状態の開始点」であり,この辺りまでが自然な相対系であろうという話である.イジェール語では,更に後方側に「立ち上げ終わった状態が終わる」=「元の状態に戻る点」が-itteの終了相として実装されていた.

私がこの相をしばらく廃止しなかったのは,-itteraの完結相では,いつの間にか状態が元に戻っていることが前提となっていて,そこに違和感を覚えたからだった.終了点を明示する方法がないのに,終了してある状態を表す方法があるのは,対応が取れていないと感じたのだ.しかし,これは状態遷移の方向をひっくり返す接頭辞,am-を厳密化したことにより概ね解決した.通常の状態遷移動詞-eが0→1を志向する時,それを元に作られたam-eは1→0を志向する.こうしておけば,従来-itteで示されていた終了点は,am-etで表現可能である.

以前の相体系にはもう一つ問題が有り,日本語や英語における過去時制が,-itteに対応するのか-itteraに対応するのかが明確ではなかった.終わった点を表す場合は-itte,終わった後の領域を表す場合は-itteraとしていたが,そもそも時制がないので,終わった直後の点とその後の領域を指定できるマーカーはなかった.つまり,時間マーカーがないのに,時間によって-itteと-itteraを使い分けようとしていたわけで,矛盾した体系だった.この問題も,全て-itteraに統一することで解決した.完結相本来の「物事内部の局面を無視して,外部から動作全体が完結済みであることを示す」という意味と照らしあわせても,こちらの体系のほうが整然としていて運用しやすい.

以上の理由により,-itteの終了相は廃用となった.

文法-句法-パラメータシステム

おかゆとSkypeしながら更に考えたシステム.背景から合わせてメモしておく.結構大きく変わった.特に大きな変更点は,句法と文法という二重構造に変化したこと.

本システムの目的

本手法は

  1. 必須性によらずに文の表しうる概念リストに言及するため
  2. 句レベルで生起する現象と文レベルで生起する現象を分けて言及するため

に考案された.

マーカーシステムの概要

本手法では,マーカーとパラメーターというふたつの概念を導入することによって,概念と表層の分離を試みた.また,句法と文法という二重構造を用いることで,語彙レベルから句レベルへのパラメータ収集規則と,パラメータ同士のやりとりによる一致現象を分けて記載する.

まず,句法について説明する.句はパラメーターを持ち,初期値は未定義である.マーカーは句が表しうる意味範疇のうちのひとつに対応しており,特定のパラメーターを持つ.また,マーカーはその標示が必須である必須マーカー,他のマーカーと同じパラメータを持つか下位のパラメータを持つ場合のみ許可される従属マーカー,それ以外の非必須マーカーに分類できる.句中にマーカーを置くことで,マーカーが持つパラメーターを句に代入することができる.ここで「句」とは,「必須マーカーを中心として構成された単語群」のことを指す.

例えば,英語においては時間マーカーは必須マーカーである.そのマーカー:パラメーターリストを下記に示す.

  • [マーカー:パラメーター]
  • [動詞の原型:現在]
  • [will+動詞の原形:未来]
  • [動詞の過去形:過去]
  • [had+動詞の現在完了形:大過去]

また,従属マーカーとしてtwo days ago や tommorow といった[時間を表す副詞(節)]を取ることが出来る.これらの要素は動詞句を形成する.

次に,文法について説明する.文法は,句法レベルで収集された「句のパラメータ」を,「文のパラメータ」にどのように反映させるかを表す.また,句同士のパラメータの授受についても規定する.

例えば,英語の時間についての上記の例を引き継ぐと,文法は次のように書ける.

  • {文の時間パラメータ←動詞句}
  • {従属節の時間パラメータ←文}

ふたつ目の規則で,従属節の時制の一致が扱われている.

このシステムにはいくつかのメリットがある.

  1. 標示が必須か否かに概念が左右されない
  2. 他の言語におけるマーカー形態に左右されない
  3. マーカーが表す概念を無限に拡張可能である
  4. 文レベルの現象と句レベルの現象を分けて記載可能である

1.標示が必須か否かに概念が左右されない

前述の通り,文法範疇はその標示が必須か否かによって区別される.本手法では,全てのマーカーが必須というわけではないため,非必須要素についても同列に扱うことができる.「英語ではテンスで表される時間概念って,中国語ではどう表すの?文法範疇ではないことは知ってるんだけど,時間そのものは表せるでしょ?」という質問を「中国語の時間マーカーってどうなってるの?」と単純に尋ねることが出来るようになる.テンスやアスペクトと言った用語に含まれる強制性のニュアンスを除去して,時間や局面の概念そのものへの言及を容易にすることができる.

2.他の言語におけるマーカー形態に左右されない

ある言語においてマーカーが副詞で標示されている場合に,自言語では屈折で標示されているとしても,マーカーの表示方法の如何とマーカーが表す概念とは分離しているため,そのことで扱いを変える必要はない.このことは,例えば時間概念をどの程度細分化して表現し得るかを考える際に,どの標示形態についての話なのか(活用なのか,接辞なのか,副詞なのか等)で混乱をきたすことがなく便利である.

3.マーカーが表す概念を無限に拡張可能である

例えば対象がヘビ的であるか否かを区別する「ヘビ性マーカー」を用意することができる.任意の概念Xに対して,「概念Xのマーカー」を考えることが出来るため,拡張性に優れる.

4.文レベルの現象と句レベルの現象を分けて記載可能である

一致現象は文レベルの現象であり,それぞれの句の規則として列挙すると猥雑である.本手法では,句レベルの規則と文レベルの規則は分離しているため,一部の規則について見直しを図っても,他の部分には影響を与えない.

拡張文法範疇(マーカーシステム)について

おかゆ,よーざとSkypeしながら考えたシステム.背景から合わせてメモしておく.

現行の文法範疇の問題点

自然言語で用いられる文法範疇という概念には,表したい概念と表層が分離していないという問題がある.文法範疇であるか否かは,ある要素の値が統語的あるいは形態的に標示されることが必須であるかによって決まっている.例えば,テンスは時間を表す文法範疇だが,文法範疇である以上,標示が必須のもののみを指している.ゆえに,中国語では時間の標示は必須ではないので,テンスは無いということになる.しかし,中国語話者に時間の感覚がないわけではなく,当然時間は必須ではない別の方法で表現され得る.こういった場合,「テンスが表すものと同じことを,必須性によらずに表す概念」があると便利である.

マーカーシステムの目的

上記の背景を受けて,本手法は必須性によらずに文の表しうる概念リストに言及するために考案された.

マーカーシステムの概要

本手法では,マーカーとパラメーターというふたつの概念を導入することによって,概念と表層の分離を試みた.文はパラメーターを持ち,初期値は未定義である.マーカーは文が表しうる意味範疇のうちのひとつに対応しており,特定のパラメーターを持つ.また,マーカーはその標示が必須である必須マーカー,他のマーカーと同じパラメータを持つか下位のパラメータを持つ場合のみ許可される従属マーカー,それ以外の非必須マーカーに分類できる.文中にマーカーを置くことで,マーカーが持つパラメーターを文に代入することができる.

例えば,英語においては時間マーカーは必須マーカーである.そのマーカー:パラメーターリストを下記に示す.

  • [マーカー:パラメーター]
  • [動詞の原型:現在]
  • [will+動詞の原形:未来]
  • [動詞の過去形:過去]
  • [had+動詞の現在完了形:大過去]

また,従属マーカーとしてtwo days ago や tommorow といった[時間を表す副詞(節)]を取ることが出来る.

このシステムにはいくつかのメリットがある.

  1. 標示が必須か否かに概念が左右されない
  2. 他の言語におけるマーカー形態に左右されない
  3. マーカーが表す概念を無限に拡張可能である

1.標示が必須か否かに概念が左右されない

前述の通り,文法範疇はその標示が必須か否かによって区別される.本手法では,全てのマーカーが必須というわけではないため,非必須要素についても同列に扱うことができる.「英語ではテンスで表される時間概念って,中国語ではどう表すの?文法範疇ではないことは知ってるんだけど,時間そのものは表せるでしょ?」という質問を「中国語の時間マーカーってどうなってるの?」と単純に尋ねることが出来るようになる.テンスやアスペクトと言った用語に含まれる強制性のニュアンスを除去して,時間や局面の概念そのものへの言及を容易にすることができる.

2.他の言語におけるマーカー形態に左右されない

ある言語においてマーカーが副詞で標示されている場合に,自言語では屈折で標示されているとしても,マーカーの表示方法の如何とマーカーが表す概念とは分離しているため,そのことで扱いを変える必要はない.このことは,例えば時間概念をどの程度細分化して表現し得るかを考える際に,どの標示形態についての話なのか(活用なのか,接辞なのか,副詞なのか等)で混乱をきたすことがなく便利である.

3.マーカーが表す概念を無限に拡張可能である

例えば対象がヘビ的であるか否かを区別する「ヘビ性マーカー」を用意することができる.任意の概念Xに対して,「概念Xのマーカー」を考えることが出来るため,拡張性に優れる.


とは言え,殆どのメリットは現行の文法範疇でも可能である.この手法の目的は,テンスやアスペクトと言った用語から強制性を取り去った用語を作ることにある.結果として,「時間マーカーが表す概念」「局面マーカーが表す概念」と言い換えることが出来た.

am-, en-, mo- の意味の差

am, en, mo はそれぞれ元の状態に対する否定を表す語を作る接頭辞である。ここでは、最も頻度の多い派生である、「動詞から対義語の動詞を作る場合」を中心に解説する。

共通の注意点

反意語形成の際は、元の動詞の与格で指示する要素は奪格で指示する。

am-

元状態×0を志向する接頭辞。何かが行われないことや、ある状態ではないことを示す派生語を形成する。元の動詞とは状態遷移の方向が逆になる。あらゆる状態遷移動詞に対して派生語を形成できる。

en-

元状態×-1を志向する接頭辞。ある状態を表す語に付いて、その状態を超越して更に反対側にまで押し返そうという外力が働いている状態を指す語を作る。元の状態から、元の動詞とは質的に逆方向に状態遷移する。-1, 0, 1 の3状態が想定される動詞に対しては派生語を形成できるが、1, 0 の2状態しか想定されない動詞に対しては派生語を形成できない。

mo-

単にその要素を欠いていることを表す接頭辞。変化を表す事ができないので、動詞につくことは基本的にない。記述詞や名詞から派生語を作る。

対義語生成の際の格組について

対義語を生成する場合、元の動詞の格組の内、 与格と奪格が入れ替わる。

品詞 単語 音素 発音 意味
動詞 adeigoe /adeigOe/ アデイゴーエ (積極的に)安定化する
動詞 amadeigoe /amadeigOe/ アマデイゴーエ (安定の物を)安定でなくす
動詞 enadeigoe /enadeigOe/ エナデイゴーエ (積極的に)不安定化する
動詞 saime /saIme/ サイーメ 泳がせる
動詞 amzaime /amzaIme/ アムザイーメ 泳ぎ終わらせる

小数と分数

小数の表記と発音

小数は,「.」で区切って表現する.小数点以下の桁数が多い場合は,スペースで区切ることもある.読み方は日本語同様,小数点をduda|点と呼び,小数点以下の数値を粒読みする.

読み
0.1 zad duda ita
0.15 zad duda ita gu
0.0015 zad duda zad zad ita gu
3.141 592 65 sen duda ita s’a ita (休止) gu fe na (休止) duh gu
200,003.141 59 navender tevzin sen duda ita s’a ita (休止) gu fe

分数の表記と発音

分数表現自体は存在するが,日常的にはfei|半分やfevei|四分の一等の特別な物のみ常用される.小数と分数では,小数を好んで用いる.表現方法は小数とほぼ同じで,duda|点の代わりにbenga|スラッシュを挟む.帯分数はtaで挟んで読む.ただし,分母と分子は独立した数字であるため,分母は粒読みせずに普通の数字として読む.スペースも設けず,コンマを用いる.

日本語と逆に分子を先に発音することに注意が必要.

読み
1/2 ita benga na
1/321 ita benga senvendir nade ita
1,234/5,678 tevzin navendir sende s’a benga gu tevzin duhvendir sit’ade ut’a
3と1/2 sen ta ita benga na

「My Humanity」 あらすじ・感想(2)

【My Humanity/長谷敏司 著】を読み終わった.BEATLESSの著者の作品.この記事の続き.

本作品は短篇集で

  1. 地には豊穣
  2. allo,toi,toi
  3. Hollow Vision
  4. 父たちの時間

の4篇構成である.この記事では後半の2篇について,あらすじと感想を書いた.

ネタバレを含むので格納.
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筆記体

文字の手書きについて

手書きの場合,ブロック体と筆記体のどちらかを用いる.イジェール語の筆記体はブロック体と形状が大きく異なるため,サイン以外ではブロック体を手書きする場合が多い.ただし,書きにくい文字や判別しにくい文字だけは筆記体を織り交ぜる人も多い.

大文字

手書き大文字

大文字筆記体

大文字筆記体

小文字筆記体

小文字筆記体