おかゆ,よーざとSkypeしながら考えたシステム.背景から合わせてメモしておく.
現行の文法範疇の問題点
自然言語で用いられる文法範疇という概念には,表したい概念と表層が分離していないという問題がある.文法範疇であるか否かは,ある要素の値が統語的あるいは形態的に標示されることが必須であるかによって決まっている.例えば,テンスは時間を表す文法範疇だが,文法範疇である以上,標示が必須のもののみを指している.ゆえに,中国語では時間の標示は必須ではないので,テンスは無いということになる.しかし,中国語話者に時間の感覚がないわけではなく,当然時間は必須ではない別の方法で表現され得る.こういった場合,「テンスが表すものと同じことを,必須性によらずに表す概念」があると便利である.
マーカーシステムの目的
上記の背景を受けて,本手法は必須性によらずに文の表しうる概念リストに言及するために考案された.
マーカーシステムの概要
本手法では,マーカーとパラメーターというふたつの概念を導入することによって,概念と表層の分離を試みた.文はパラメーターを持ち,初期値は未定義である.マーカーは文が表しうる意味範疇のうちのひとつに対応しており,特定のパラメーターを持つ.また,マーカーはその標示が必須である必須マーカー,他のマーカーと同じパラメータを持つか下位のパラメータを持つ場合のみ許可される従属マーカー,それ以外の非必須マーカーに分類できる.文中にマーカーを置くことで,マーカーが持つパラメーターを文に代入することができる.
例えば,英語においては時間マーカーは必須マーカーである.そのマーカー:パラメーターリストを下記に示す.
- [マーカー:パラメーター]
- [動詞の原型:現在]
- [will+動詞の原形:未来]
- [動詞の過去形:過去]
- [had+動詞の現在完了形:大過去]
また,従属マーカーとしてtwo days ago や tommorow といった[時間を表す副詞(節)]を取ることが出来る.
このシステムにはいくつかのメリットがある.
- 標示が必須か否かに概念が左右されない
- 他の言語におけるマーカー形態に左右されない
- マーカーが表す概念を無限に拡張可能である
1.標示が必須か否かに概念が左右されない
前述の通り,文法範疇はその標示が必須か否かによって区別される.本手法では,全てのマーカーが必須というわけではないため,非必須要素についても同列に扱うことができる.「英語ではテンスで表される時間概念って,中国語ではどう表すの?文法範疇ではないことは知ってるんだけど,時間そのものは表せるでしょ?」という質問を「中国語の時間マーカーってどうなってるの?」と単純に尋ねることが出来るようになる.テンスやアスペクトと言った用語に含まれる強制性のニュアンスを除去して,時間や局面の概念そのものへの言及を容易にすることができる.
2.他の言語におけるマーカー形態に左右されない
ある言語においてマーカーが副詞で標示されている場合に,自言語では屈折で標示されているとしても,マーカーの表示方法の如何とマーカーが表す概念とは分離しているため,そのことで扱いを変える必要はない.このことは,例えば時間概念をどの程度細分化して表現し得るかを考える際に,どの標示形態についての話なのか(活用なのか,接辞なのか,副詞なのか等)で混乱をきたすことがなく便利である.
3.マーカーが表す概念を無限に拡張可能である
例えば対象がヘビ的であるか否かを区別する「ヘビ性マーカー」を用意することができる.任意の概念Xに対して,「概念Xのマーカー」を考えることが出来るため,拡張性に優れる.
とは言え,殆どのメリットは現行の文法範疇でも可能である.この手法の目的は,テンスやアスペクトと言った用語から強制性を取り去った用語を作ることにある.結果として,「時間マーカーが表す概念」「局面マーカーが表す概念」と言い換えることが出来た.
am, en, mo はそれぞれ元の状態に対する否定を表す語を作る接頭辞である。ここでは、最も頻度の多い派生である、「動詞から対義語の動詞を作る場合」を中心に解説する。
共通の注意点
反意語形成の際は、元の動詞の与格で指示する要素は奪格で指示する。
am-
元状態×0を志向する接頭辞。何かが行われないことや、ある状態ではないことを示す派生語を形成する。元の動詞とは状態遷移の方向が逆になる。あらゆる状態遷移動詞に対して派生語を形成できる。
en-
元状態×-1を志向する接頭辞。ある状態を表す語に付いて、その状態を超越して更に反対側にまで押し返そうという外力が働いている状態を指す語を作る。元の状態から、元の動詞とは質的に逆方向に状態遷移する。-1, 0, 1 の3状態が想定される動詞に対しては派生語を形成できるが、1, 0 の2状態しか想定されない動詞に対しては派生語を形成できない。
mo-
単にその要素を欠いていることを表す接頭辞。変化を表す事ができないので、動詞につくことは基本的にない。記述詞や名詞から派生語を作る。
対義語生成の際の格組について
対義語を生成する場合、元の動詞の格組の内、 与格と奪格が入れ替わる。
例
品詞 |
単語 |
音素 |
発音 |
意味 |
動詞 |
adeigoe |
/adeigOe/ |
アデイゴーエ |
(積極的に)安定化する |
動詞 |
amadeigoe |
/amadeigOe/ |
アマデイゴーエ |
(安定の物を)安定でなくす |
動詞 |
enadeigoe |
/enadeigOe/ |
エナデイゴーエ |
(積極的に)不安定化する |
動詞 |
saime |
/saIme/ |
サイーメ |
泳がせる |
動詞 |
amzaime |
/amzaIme/ |
アムザイーメ |
泳ぎ終わらせる |
小数の表記と発音
小数は,「.」で区切って表現する.小数点以下の桁数が多い場合は,スペースで区切ることもある.読み方は日本語同様,小数点をduda|点と呼び,小数点以下の数値を粒読みする.
数 |
読み |
0.1 |
zad duda ita |
0.15 |
zad duda ita gu |
0.0015 |
zad duda zad zad ita gu |
3.141 592 65 |
sen duda ita s’a ita (休止) gu fe na (休止) duh gu |
200,003.141 59 |
navender tevzin sen duda ita s’a ita (休止) gu fe |
分数の表記と発音
分数表現自体は存在するが,日常的にはfei|半分やfevei|四分の一等の特別な物のみ常用される.小数と分数では,小数を好んで用いる.表現方法は小数とほぼ同じで,duda|点の代わりにbenga|スラッシュを挟む.帯分数はtaで挟んで読む.ただし,分母と分子は独立した数字であるため,分母は粒読みせずに普通の数字として読む.スペースも設けず,コンマを用いる.
日本語と逆に分子を先に発音することに注意が必要.
数 |
読み |
1/2 |
ita benga na |
1/321 |
ita benga senvendir nade ita |
1,234/5,678 |
tevzin navendir sende s’a benga gu tevzin duhvendir sit’ade ut’a |
3と1/2 |
sen ta ita benga na |
【My Humanity/長谷敏司 著】を読み終わった.BEATLESSの著者の作品.この記事の続き.
本作品は短篇集で
- 地には豊穣
- allo,toi,toi
- Hollow Vision
- 父たちの時間
の4篇構成である.この記事では後半の2篇について,あらすじと感想を書いた.
ネタバレを含むので格納.
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文字の手書きについて
手書きの場合,ブロック体と筆記体のどちらかを用いる.イジェール語の筆記体はブロック体と形状が大きく異なるため,サイン以外ではブロック体を手書きする場合が多い.ただし,書きにくい文字や判別しにくい文字だけは筆記体を織り交ぜる人も多い.
大文字
大文字筆記体
小文字筆記体
特殊な動詞
イジェール語における特殊な動詞は、dore、nore、areの3つが挙げられる。これらのうち、dore、areは状態動詞である(他の動詞は状態遷移動詞)。また、areは原型のままでは唯一の自動詞である(dingomeの様に目的語を前置した複合自動詞は多く存在する)。
doreはコピュラに当たる動詞である。主格が何かと同一である(指定文)か、何かの要素を持つ(措定文)ことを表す。目的語として無格の名詞および記述詞を取ることができる。doreは基本的に省略可能である。ただし、相を明示したい場合と関係節内では省略不可である。
noreは「~が…になる」を意味し、無相でも現在は未完結であり、将来的に実行される可能性が高いこと含意する。これは、doreではなくnoreを選択する理由が、主に「過程に注目したい」場合か、「現在はその状態にないが将来なる予定がある」のふたつであることによる。
動詞 |
意味 |
自動詞or他動詞 |
状態or遷移 |
特記事項 |
dore |
~は…である |
特殊 |
状態 |
無格の対象を取る、記述詞を対象に取れる |
nore |
~が…になる |
他動詞 |
状態遷移 |
無相で未完結を含意する |
are |
~が存在する |
自動詞 |
状態 |
唯一の自動詞 |
状態動詞の相
状態動詞であるdoreとareは特殊な相体系を持つ。
相の名前 |
活用語尾 |
意味 |
原型(無相) |
-e |
~の状態である |
未然相 |
-destin |
まだ~の状態ではない |
開始相 |
-des |
~の状態になり始まる |
進行相 |
なし |
なし |
完了相 |
なし |
なし |
状態相 |
なし |
なし |
完結相 |
-ittera |
~の状態が既に終了しており、現在はその影響下にない |
経験相 |
-ar |
~の状態だったことがある |
例
- Ref ireaom dore. | 私は医者だ。
- Ref ireaom. | 私は医者だ。
- Ref ireaom dorittera. | 私は医者だった(今は医者ではない)。
- Ref ireaom dorar. | 私は医者だったことがある。
- S’af ican dore. | 彼女は美しい。
- S’af ican. | 彼女は美しい。
- S’af noret ican. | 彼女は美しくなった(今も美しい)。
- S’af norittera ican. | 彼女は美しかった(今は美しくない)。
- Ref ze s’af ireaom dore n u dosnittera. | 私は彼が医者だと聞いている。
この例の場合、doreは関係節内なので省略不可。
- Ref ireaomu nore. | 私は医者になる。
今医者ではないからと言って、nordestinにする必要はない
(doreを使用していない時点で現在医者でないことはわかるため)。
- Ref ireaomu noret. | 私は医者になった。
現在が「医者になる」の完了点である=医者になりたてである
- Ref kuvera are. | 私はここに居る。
- Ref kuvera arittera. | 私はここに居た。
新出単語
品詞 |
単語 |
音素 |
発音 |
意味 |
名詞 |
ireaom |
/irewAom/ |
イレワーオム |
医者 |
名詞 |
ican |
/Ican/ |
イーツァン |
(永続的に)美しい、美しく |
法性記述詞
法性記述詞とは,動詞を修飾することでモダリティ(内容に対する話者の態度や心境)を示す記述詞のことである.以下に代表的なものを示す.
単語 |
法性 |
意味 |
sorin |
能力可能 |
~できる |
zerin |
状況可能 |
~できる |
tein |
願望,希望 |
~したい |
nasen |
勧告 |
~すべきだ |
sarasen |
提案,忠告 |
~したほうがいい |
oren |
許可 |
~しても良い |
mon |
禁止命令 |
~するな,~してはならない |
iuzen |
勧誘 |
(一緒に)~しよう |
iesen |
意志 |
(自分は)~しよう,~するつもりだ |
kerin |
依頼 |
~して欲しい |
rukin |
希求 |
どうか~ように |
意志は,近々実行する可能性が高い行動に対する宣言である.一方,願望はすぐに行動するかどうかは判断に入っておらず,漠然とそうしたいという気持ちを表す.また,勧誘は意志の対象を外部にまで広げたものである.
動詞で表すもの
日本語では「~だろう」「~そうだ」等で表すものを,緯語では動詞で表す場合がある.
単語 |
法性 |
意味 |
derue |
推量 |
~だろうと推測する |
surue |
伝聞 |
~だという情報を得る |
伝聞の動詞は,情報媒体を選ばずに使える.聴覚的に聞いた場合のみならず,テレビで見た場合,新聞で読んだ場合にも用いる.情報源を明示したい場合は奪格を用いる.
例
- Ref miraksere.|私は戦う.
- Ref miraksere sorin.|私は戦える.(戦う能力がある.)
- Ref miraksere sorin ab sien zerin.|私は(能力的には)戦えるが,(状況的に)戦えない.
- Ref sien miraksere ab Naraf miraksere, den?|私は戦わないけど貴方は戦うんでしょ?
- Ref erdisatdu derue, ze s’af miraksere u.|新聞によると,彼は戦うだろう.
- Ref mas’uhur surue, ze s’af miraksere u.|彼は戦うらしいとテレビで見た.