十兵衛ちゃんの感想
- 2025年08月17日
- 書評
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久しぶりに見返した。もともと時代劇が好きであることもあり、かなり好きな作品だがちゃんと感想を書いたことが無いので、描いておこうと思う。
どんな話?
柳生十兵衛のふざけた遺言に従って、突如二代目柳生十兵衛を襲名した十兵衛ちゃんこと菜ノ花自由が、300年前の因縁により襲い掛かる竜乗寺一門を返り討ちにしていく話。
この話は変身魔法(?)少女モノであると同時に時代劇である。変身して刀を抜けば必ず勝つので、アクション部分は(映像的には見栄えの中心ではあっても)話の中心ではない。この話に通底しているテーマは、思春期と親離れ・子離れであると思う。
ストーリーの流れについて
1話から9話にかけて、自由は一貫して柳生十兵衛として振る舞うことを拒否し続ける。家族を「私は菜ノ花自由だけで精いっぱいなの(3話)」「もう私、菜ノ花自由なので、ごめんなさい(9話)」「私は、私のために生きているんだから。私は、私だけで精いっぱいだから(9話)」の様に、かなり念を押して何度も主張され、自分たちのことだけを考えて生きようという父の意思と自由の意思は一致している。天真爛漫さが強調されているのでわかりにくいが、主人公の性質は天真爛漫かつ自己中心的であると言え、わがままで可愛らしい子供である。
自由は戦いから逃げ続け、正面から使命に向き合うことはしない。父が危険にさらされた(1話)、刀を突き付けられて(2話)、友人が切られた(3話)、友人を切ると宣言された・先輩に頼まれて(4話)、父を人質に取られた(5話)など、特に前半は自分の意思で戦うことは無い。
これが崩れ始めるのは一貫して自由のためを思って自分が嫌われてでも行動しようとする先輩、四郎の姿勢に影響を受けてである。それも、数話に渡ってようやく理解する。四郎は6話で葛藤しながらも自由に訓練をつけるため果し状を渡す。この行為の真意が自由には理解できず、苦しむ。「彼女には僕の気持ちはわからないだろう、だがそれで良い(9話)」という言付けでようやく他者のために行動するということを理解し、即座に敵にわざとつかまって本拠地に乗り込むという他者のための行動を実施する。他者を怨念から解放するために、10話で初めて自分の意思で変身する。11話で父の「自由だけで居ろ」という呼びかけを無視して使命のために飛び出して、12話では使命のために戻れないと宣言する。
最終話となる13話では、十兵衛vs太鼓太夫という構図に見えて、実際には娘と父の、子供と大人の、私的な子供の姿と使命と怨念の大人の姿の戦いが重ねあわされている。父と使命の二つを同時に敵に回して、しかも父が勝つことで使命から解き放たれるという結末には納得できるが、大人として成長する話に見せかけて、結局は子供としての日常を取り戻す話になっているのでその点は思春期を題材とした変身ものとしては惜しいかもしれない。
テーマについて
大人とは、使命や仕事として、他者からの要請に従って他者のために生きるものである。子供とは、自分のために生きるものである。自由は変身すると大人の姿になり、その間は二代目柳生十兵衛としての使命に生きることになる。使命を帯びて戦うことで、本人は傷つき苦しむ。これは、決して変身ヒロインでなくても普通に仕事をしていれば大人なら誰でも経験することのメタファーであって、他者に負わされた期待が重責になるというのは良くあることだ。こう理解すると、父である菜の「自分たちのことだけを考えて生きよう」という思いは、子としての自由を守る決意であると同時に、いつか打ち破るべき子供としての呪縛になる。
このことは、8話から11話にかけてはっきり示されている。かつて仕事を重視したあまり家族を蔑ろにしてしまったことで、菜と自由の関係は一度壊れる(8話)。この反省から、菜は自由のことを第一に考えるようになる。おそらく泊まり込みで何日も帰っていなかった状態(8話で母、真琴の処方箋が大量にある描写から)から、現在の在宅スタイルに変化したのもこれが一因だろう。このことを通して自由も父を許し、親子関係は修復される。
ここから親子離れの話を描くと思いきや、描かなかった。親子愛の話であって成長物語ではなかったわけだ。強い大人としての自立を描こうとすると父親が代わりに死ぬ、遠くへ去る、などの結末が必要になるので致し方ないかもしれない。2で本格的に親離れを描いても良かったと思うが、残念ながら1とテーマが似通っているので1を超えるものにはならなかったように思う。アクション部分の比重が増したことで、そちらが物足りなかった人には2の方が評価が高いかもしれない。
話の構造としては無駄が無く非常に美しいので好きな話だが、父から見た理想の娘像という感じもする。結局、13話で父は300年前の怨念(に仮託された大人の世界)から娘を取り戻すことに成功し、使命を運んできた鯉之助も居なくなったので、自由は父の知らない大人の女性にはならず、娘として帰還してしまった。
細かい部分
変身シーンのBGMのイントロが、変身シーンからではなく変身を決意した段階から流れ始めるのが好き。結構珍しい気がする。