「新世界より -上-」読了
- 2013年01月30日
- ネタバレ, 書評
- No Comment
【新世界より上:/貴志祐介】を読み終わった.久しぶりにSFを買ってきて読んだ気がする.
ストーリーは基本的に主人公,早季(サキ)の回想という形で進んでいく.35歳の早季が,幼少期からの思い出を語る形だ.この方法をとっているおかげで,小学生では理解できない複雑な概念を説明したり,後のシーンで分かることを先取りして予感させるような書き方ができる.全ての真実を知った後に,それを知らなかったころのことを書いている体裁のおかげで,読んでいる方としてはストーリーが把握しやすい.「新世界より」は上中下の3巻構成で,上巻では,前半で注連縄で囲まれた不思議な神栖66町の現状と早季の幼少期の思い出が語られ,後半では隠された真実の一部と,PK能力を畏れる他の生物との関係の危うさが書かれる.
以下ネタバレを含むので格納.
ストーリーは乱暴にまとめると所謂「超能力モノ」で,大ストーリーは科学的な背景にのっとって発現させた超能力にまつわる,人類の歴史の話である.といっても,ひたすら背景説明や歴史の話ばかりが展開されることはなく,早季とその仲間たちの冒険や日常が書かれる中で説明されていく.舞台設定自体は「とある魔術の禁書目録」シリーズと似た空気を想像しておくと,大体あってる気がする.背景は「風の谷のナウシカ」に似ていると思う.
基本が早季の自伝なので,とても読みやすい.ストーリーも後半に向けてどんどん盛り上がっていくし,上巻の最後は覚(サトル)の
「だけど、賭けても良いよ。今現在が、たぶん、これまでで一番危険な状態なんだ」
の真意が明かされないまま終わり,続きが猛烈に気になる終わり方になっている.
内容に触れると,全体主義の管理社会が行き届いた世界…という感じなんだろうか.まだまだ上巻では明かされる情報が断片的なので,何とも言えない.ナウシカとの対比で考えると,たぶんバケネズミやら風船犬と言ったアンバランスな生き物や,悪意に満ちた進化を遂げた生物なんかは,人間がデザインした人工種なんだと思う.超能力を持った人間なら撃退できるが,超能力のない人間にはひとたまりもないような生物を生み出すことで,超能力者が安定した社会を築けるようにしているのでは…と想像している.最後の覚のセリフなんかから考えると,あくまでバケネズミ達は人間の超能力に感服しているだけで,人間そのものに尊敬の念を抱いているわけではなさそうだし,実際,超能力が無い間の早季たちにとっては致命的な強さだった.
こんな背景を知ってしまった早季たちはどう考えても危険分子なので,所謂「収容所送りの政治犯」みたいな扱いを受けるのが中巻なのかなーと想像している.
何にせよ,続刊を買って来よう.これは面白い小説だ.