拡張文法範疇(マーカーシステム)について
- 2015年10月04日
- 人工言語
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おかゆ,よーざとSkypeしながら考えたシステム.背景から合わせてメモしておく.
現行の文法範疇の問題点
自然言語で用いられる文法範疇という概念には,表したい概念と表層が分離していないという問題がある.文法範疇であるか否かは,ある要素の値が統語的あるいは形態的に標示されることが必須であるかによって決まっている.例えば,テンスは時間を表す文法範疇だが,文法範疇である以上,標示が必須のもののみを指している.ゆえに,中国語では時間の標示は必須ではないので,テンスは無いということになる.しかし,中国語話者に時間の感覚がないわけではなく,当然時間は必須ではない別の方法で表現され得る.こういった場合,「テンスが表すものと同じことを,必須性によらずに表す概念」があると便利である.
マーカーシステムの目的
上記の背景を受けて,本手法は必須性によらずに文の表しうる概念リストに言及するために考案された.
マーカーシステムの概要
本手法では,マーカーとパラメーターというふたつの概念を導入することによって,概念と表層の分離を試みた.文はパラメーターを持ち,初期値は未定義である.マーカーは文が表しうる意味範疇のうちのひとつに対応しており,特定のパラメーターを持つ.また,マーカーはその標示が必須である必須マーカー,他のマーカーと同じパラメータを持つか下位のパラメータを持つ場合のみ許可される従属マーカー,それ以外の非必須マーカーに分類できる.文中にマーカーを置くことで,マーカーが持つパラメーターを文に代入することができる.
例えば,英語においては時間マーカーは必須マーカーである.そのマーカー:パラメーターリストを下記に示す.
- [マーカー:パラメーター]
- [動詞の原型:現在]
- [will+動詞の原形:未来]
- [動詞の過去形:過去]
- [had+動詞の現在完了形:大過去]
また,従属マーカーとしてtwo days ago や tommorow といった[時間を表す副詞(節)]を取ることが出来る.
このシステムにはいくつかのメリットがある.
- 標示が必須か否かに概念が左右されない
- 他の言語におけるマーカー形態に左右されない
- マーカーが表す概念を無限に拡張可能である
1.標示が必須か否かに概念が左右されない
前述の通り,文法範疇はその標示が必須か否かによって区別される.本手法では,全てのマーカーが必須というわけではないため,非必須要素についても同列に扱うことができる.「英語ではテンスで表される時間概念って,中国語ではどう表すの?文法範疇ではないことは知ってるんだけど,時間そのものは表せるでしょ?」という質問を「中国語の時間マーカーってどうなってるの?」と単純に尋ねることが出来るようになる.テンスやアスペクトと言った用語に含まれる強制性のニュアンスを除去して,時間や局面の概念そのものへの言及を容易にすることができる.
2.他の言語におけるマーカー形態に左右されない
ある言語においてマーカーが副詞で標示されている場合に,自言語では屈折で標示されているとしても,マーカーの表示方法の如何とマーカーが表す概念とは分離しているため,そのことで扱いを変える必要はない.このことは,例えば時間概念をどの程度細分化して表現し得るかを考える際に,どの標示形態についての話なのか(活用なのか,接辞なのか,副詞なのか等)で混乱をきたすことがなく便利である.
3.マーカーが表す概念を無限に拡張可能である
例えば対象がヘビ的であるか否かを区別する「ヘビ性マーカー」を用意することができる.任意の概念Xに対して,「概念Xのマーカー」を考えることが出来るため,拡張性に優れる.
とは言え,殆どのメリットは現行の文法範疇でも可能である.この手法の目的は,テンスやアスペクトと言った用語から強制性を取り去った用語を作ることにある.結果として,「時間マーカーが表す概念」「局面マーカーが表す概念」と言い換えることが出来た.