概説
どの言語に転写するにせよ、最も難しいのはz’とd’の扱いである。単語ごとに発音を示すのに最適と思われる表記にチューニングされてしまうことがしばしばある。
ドイツ語(ラテン文字一般)
歴史的経緯により、一般的にイジェール語をラテン文字転写するときはドイツ語式表記法を用いる。
e |
a |
o |
i |
u |
h |
k |
ss |
t |
z/tz |
n |
l |
m |
p |
f |
g |
s |
d |
b |
w |
変音記号付き文字は
cは音節頭ならz、音節末ならtzに転写される。
ロシア語
ロシア語はイジェール語が使用されている世界において、英語とともに広く用いられている国際言語である。
э |
а |
о |
и |
у |
х |
к |
с |
т |
ц |
н |
л |
м |
п |
ф |
г |
з |
д |
б |
в |
変音記号付き文字は
軟音記号(ь)のついている文字は後続母音がある場合は軟母音化させた上でьを外す。各言語への転写の内、最も元の発音を保存しているのはロシア語転写だろう。
例文
- イジェール語原文:Mara! Es’aif mirsinetra! (見て!星が光ってる!)
- 独語:Mala! Eschaif milssinetla!
- 露語:Мала! Эшаиф милсинэтл!
口語体と文語体
今まで述べてきたのは,すべて口語体である.イジェール語は口語体と文語体の差は少ないが,特に文学的表現を狙った文語体というものは存在する.
口語体との差
大きな差は
- 人称代名詞が異なる.
- 記述詞が形容詞と副詞に分離し,形容詞は-a(-anの記述詞はnを取り去る),副詞は-(e)mとなる.
- 同様に属格も代名詞以外は-is,-inに関わらず-aとなる.
- 副詞が動詞につく場合は動詞に後置する.
- 法記述詞は副詞として動詞の後ろにつく.
- 疑問文は語尾に文記述詞ne?を後置する.記述詞minを用いない.
- 命令は-aではなく記述詞zardaを用いる.
- 完結相が-itteraではなく-itteになる.
の7点である.これらは古語に由来するが,実際の古語とは異なるため偽古体とも呼ばれる.人称代名詞は下表の体系になる.
人称 |
主格 |
属格 |
対格 |
与格 |
一人称単数 |
va |
vo |
vis |
van |
二人称単数 |
ta |
to |
tis |
tan |
三人称単数 |
ara |
aro |
aris |
aran |
一人称複数 |
vara |
voro |
viris |
varan |
二人称複数 |
tara |
toro |
tiris |
taran |
三人称複数 |
arara |
aroro |
ariris |
araran |
- korne dirin|赤い剣
- korne dira|赤き剣
- res renke sarisin|私の魔法の林檎
- vo renke sarisa|我が魔法の林檎
- mef min res tak?|お前は私の敵か?
- ta vo tak, ne?|貴様は我が敵であるか?
敬語/敬意表現
イジェール語には複雑な敬語はなく,敬意は専ら統語的に表現する.つまり,語順や言い回しが敬語に相当する.
敬意の強さ
一般的な敬意表現には
- 断定を避ける
- 動作主を身内にする
- 迂遠な言い回しを用いる
の3種類があり,下に行くほど敬意の度合いが強い.
より強い敬意表現が単独で用いられることはなく,必ずより下位の表現を伴う.つまり,断定しながら迂遠な言い方を用いたりはしない.
単語のアクセント
イジェール語は長短アクセントと高低アクセントの混合アクセント体系である.アクセントのある音節を長めかつ高めの音程で発音する.発音しながら顕著に音程を上げることはなく,アクセント音節とその1つ前の音節とで高さに差を出す.アクセント位置は義務的に決まっており,後ろから2番目の母音である.音節が1つの場合は,その音節にアクセントが来る.例を挙げると
- z’aman ジャーマン 大地
- kede ケーデ 軍
- kadra- カードラ 4つの
- var ヴァール 車輪
のようになる.z’amanの例では,ジャーは高く長く発音し,マンは低く短い.
複合語の場合,長短アクセントの位置は維持され,高低アクセントは最後から2番めの音節に移動する.
- z’amangede ジャーマンゲーデ 陸軍
- kadravar カードラーヴァル 四輪車
上記の例の場合,ジャーマンの部分は低く発音し,ゲーの音節で高さを上げる.ジャーの音節の長さは維持されるが,高さはマンと同じになる.
助詞や派生,アスペクトの影響
助詞とアスペクト語尾はアクセント位置に影響を与えない.
- kere ケーレ 運転する
- keritte ケーリッテ 運転した
一方で派生した単語はアクセント位置も移動する.
- aksere アクセーレ 戦わせる
- akser アークセル 戦い
外来語のアクセント
外来語であっても後ろから2番目の母音にアクセントが来る.むしろ,アクセント位置を合わせるために母音が挿入されたり削除されたりすることがある.その際の挿入母音はaが多い.
- 母音削除:abatstof アバートストフ←аббатство(abbatstvo)アバートスタヴァ
10進法であり、以下の様に読む。
数 |
読み |
接頭辞 |
0 |
zad |
mo- |
1 |
ita |
ma- |
2 |
na |
ba- |
3 |
sen |
tar- |
4 |
s’a |
kadra- |
5 |
gu |
finde- |
6 |
duh |
ikzi- |
7 |
sit’a |
sivre- |
8 |
ut’a |
ukde- |
9 |
fe |
nun- |
10 |
te |
dige- |
11 |
te ita |
digema- |
12 |
te na |
digeba- |
13 |
te sen |
digedar- |
20 |
nade |
badige- |
25 |
nade gu |
badigevinde- |
10より大きい合成数については、100、10の位は合成語になり、他の位はそのまま粒読みする。つまり、3桁毎に合成語にならない単語が現れることになる。また、100以上の合成語に対しては、頭の1をつけても省略してもよい。1,000はtevzinでもita tevzinでも良く、100はfendirでもitavendirでも良い。
下表に例を記す。
数 |
読み |
11 |
te ita |
12 |
te na |
20 |
nade |
30 |
sende |
100 |
fendir |
101 |
fendir ita |
121 |
fendir nade ita |
200 |
navendir |
221 |
navendir nade ita |
300 |
senvendir |
1,000 |
tevzin |
2,000 |
na tevzin |
2,221 |
na tevzin navendir nade ita |
10,000 |
te tevzin |
100,000 |
fendir tevzin |
200,000 |
navendir tevzin |
221,000 |
navendir nade ita tevzin |
1,000,000 |
madien |
1,000,000,000 |
badien |
badien以上の数については、3桁毎に接頭辞形を付ける。この方法で1000の11乗、すなわち10の33乗、つまり1溝まで作り出すことが出来る。日常的な範囲内ではこれ以上の数は使わない為、グーゴルやアボガドロ数のような、特殊な意味や名前を持つ場合が多い。
数にまつわる表現
序数
順番を表す序数は、数を表す名詞の属格を前置して示す。名詞に対しても動詞に対しても同様。
- 4s bogau iue kerin.|4番目の本を下さい。
- Tun s’apef 3is acet.|その船は3番目に沈んだ。
- Ref 2s u reeke.|二人目が好みだ。
3番目の例文は、属格の後にすぐ助詞が来る場合、その間の名詞が省略されていると読み取るという表現手法との組み合わせである。
順序表現は逆でも良く、名詞の属格を前置して、数を後置して示す。また、英語などの影響で名詞のまま接続することもある。ただし、イジェール語では普通ハイフンで接続する。
- Bogas 4u iue kerin.|4番目の本を下さい。
- Boga-4u iue kerin.|4番目の本を下さい。
個数、回数
数字の記述詞形を後置して示す。
- Uertera sone 200in ef dore.|世界には200の国がある。
- Uertera sone 200in uden ef dore.|世界には200くらいの国がある。
- batenoka 3in|3匹の子豚
- Bogau dire 1n.|本を一度出す。
- Bogau onire 1o-2n.|本を一度二度見る。
また、個数表現を出格・向格形にすることで、~から…までという表現を作ることができる。
- Dizesvansas man tabon u 4-ruzemnir kuzave sorin.|すべての種類の資源を4スタックまで保管可能だ。
単位の付け方
数字-単位(-単位2)の形で単位をつける。単位2の位置には、~前、~歳、~間等の数字と文脈を結ぶ言葉が入る。文脈から単位が明らかな場合は省略してもよい。
- Ref 18-iri-fadoan.|私は18歳だ。
- 18-fadoaf amin.|18歳は若い。(iriを省略しても、年齢であることは明らか。)
- Kun sideskef 40-iri-fadoan.|この建物は築40年だ。
- Ref renkeu koittera 3-nati-behra.|私は3日前にりんごを食べた。
- S’af mirnarietra 1-sivret-temadi.|彼は1周間眠り続けた。
日付の表現
区分の大きい方から順に書く。~年、~世紀、~年等の単位は上述の示し方と同様である。
- Dasdif Banasda 29-nati.|今日は2月29日だ。
- Tun irif 2016.|その年は2016年だ。
- Suf 2016-iri.|それは2016年だ。
使役動詞
イジェール語の動詞は基本形で他動詞である.そのため,koe|食べるのような普通の動詞と,aksere|戦わせるのような本来的使役動詞がある.とはいえ,koeのような普通動詞を使役化する接頭辞や接尾辞はなく,形態的には使役動詞化することはない.
ここでは,使役動詞を元に使役される側に焦点を当てる表現と,逆に使役動詞ではない動詞を元に,使役的な文章を作る方法を説明する.
使役動詞の被使役表現
aksereのように元から使役的な意味の動詞については,受動態と使役格を組み合わせることで被使役表現を作る.
- ref s’au akseret.|私は彼を戦わせた.
- s’af reior akserset.|彼は私に戦わせられた.
非使役動詞の使役表現
- ref renkeu koe.|私は林檎を食べる.
- s’aior ref renkeu koe.|彼が私に林檎を食べさせる.
文法的には単に使役格に使役者が明示されただけで,平叙文とは何の差もない.
イジェール語と日本語で主語が違う.先に現れた方に主眼が置かれる.
英語における関係節に対応する構造
イジェール語には英語の様な関係節は存在しない。代わりに、修飾節による名詞修飾が同じ役割を果たす。基本的な構造は文・節・句を参照のこと。
先行詞と修飾節の関係を示す接続詞
接続詞の ze の派生形を用いて、修飾節内での先行詞の格を明示することができる。なお、これらの派生接続詞は必須要素ではなく、格を明示したい場合のみ現れる。また、英語と異なり先行詞を省略することもできる。zef などで格を明示することによって、先行詞を省略しても意味が通じやすくなるため、意味が通りにくいと思った場合は明示すればよい。
格 |
表記 |
対応する日本語助詞
(厳密には意味が異なる場合がある) |
格無し |
ze |
ー |
主格 |
zef |
は、が |
属格 |
zis |
の(所有) |
対格 |
zu |
を |
与格 |
zeni |
に、へ(目的地) |
奪格 |
zehur |
(人、物)から |
出格 |
zur |
(場所、時間)から |
処格 |
zera |
(場所、時間)で |
向格 |
zenir |
の方向へ |
経由格 |
zedi |
(場所)を通って、(期間)を通じて |
具格 |
zedu |
(手段)で |
使役格 |
zior |
(人)によって |
主要格と場所・時間表現の格を用いることが多く、目的格や使役格は殆ど使用することがない。なお、ze には名詞と接続詞の用法がある。名詞としての用法は、英語のthatで言えば接続詞の用法に、接続詞としての用法は関係詞の用法に似た用い方をされる。
例
- Zef edoke icen in ef icen.|美しく歩く(人)は美しい。
- Ze edoke icen in ef saguan.|美しく歩く事は良い。
- Fom zef edoke icen in ef icen.|美しく歩く人は美しい。
- Zu cokef koetra n ef seven?|お父さんが食べてるものは何?
- Venu zu cokef koetra n ef seven?|お父さんが食べてるものは何?
- Fomef ver’ae stim ref zu naraf reeke n u reeke.|たとえ他人が笑ったとしても、私は貴方が好むものが好きだ。(reekeの動作主がnaraであり、修飾されるのは「好まれる」客体である。)
- Ref zef mare n u sedoetra.|私は目撃者(見た人)を知っている。(mareで修飾されるのは「見る」主体である。)
- Ref zetim s’af mirigare n u ture tein.|私は彼が生きる目的を奪いたい。
- Mac zera irbae n ra, reu kude.|助けが必要なときはいつでも呼んで。
- “Sarvagorne” f ariam mizer mangu endarebe n u as’tae n.|「銀の剣」とは、すべてを解決できる万能の策という意味の慣用句である。